2021 Fiscal Year Research-status Report
有機合成化学と抗体工学を基盤とする残留農薬検査キットの開発
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20K05583
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
岩佐 精二 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30303712)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 残留農薬検査 / イムノアッセイ / 遷移金属触媒 / カルベン移動反応 / 抗原抗体反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
様々な環境負荷化学物質が健康や生態系に及ぼす影響が懸念されている。これらの物質については、排出源を管理することが最も重要であるが、その手段として環境中での存在を常に監視するモニタリングが必要となる。一方、2002年に外国からの輸入冷凍ほうれん草に基準値以上の農薬が残留していた問題や、新潟県で未登録農薬が販売されていた問題が明るみになって以来、消費者は食品の安全に強い関心を示すようになり、生産者も生産作物の残留農薬には細心の注意を払うようになった。また、2007年5月にポジティブリスト制が施行され、全ての農薬の全ての作物に対する残留基準値が設定されてから、農薬散布時の飛散による未登録農薬の作物への暴露や土壌残留による作物の汚染など想定していなかった農薬の残留の問題も表面化してきており、生産者の残留農薬への対応は必須となっている。また最近では韓国やヨーロッパで殺虫剤が鶏卵に検出され大問題となっている。 本研究は、抗原抗体反応に基づく分子認識機構を利用した免疫的化学測定法(イムノアッセイ)による果物や農産物の残留農薬分析のための簡便、廉価、迅速、高精度、自在な測定環境などの特徴を有するイムノクロマトキットを提供することを目的とする。特に現在、問題化しているリン酸エステル系やネオニコチノイド等の水溶性農薬を検査標的とする。技術的には触媒的合成技術を用いて標的農薬分子にリンカーを導入し、巨大蛋白と結合させてマウス免疫することで精度よく認識する標的特異的なモノクロナール抗体を作成する。得られる抗体の中で分析精度はppbレベルの標準としてキット化しする。イムノクロマトキットは簡便、廉価、迅速性と1次スクリーニングとしての十分な機能を有し、環境負荷物質としての水溶性残留農薬分析法を確立できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
農薬はその多くが活性水素やハロゲンを含んでいることに特徴がある。これらの官能基性農薬の特徴に着目し、独自に開発した触媒を用いるリンカー導入方法(鈴木-宮浦反応、薗頭反応、カルベンの触媒的NHおよびOH挿入反応等)を応用してハプテン群の合成が可能である。従って水溶性農薬としてメタミドフォス類、リン酸エステル誘導体系抗菌剤系に標的を絞り様々な農薬群に触媒的手法によりカルボキシル基やリン酸エステル基を効率的に導入できる触媒を開発しリンカーを導入しハプテン群を合成する触媒開発に成功した。今後、得られたハプテン群は暫時、巨大蛋白と結合させマウス免疫に提供し、モノクロナール抗体作成を行なう。ハプテン合成はELISA法による標的農薬の選択的定性・定量を達成するために、リンカー導入分子の設計が極めて重要である。実用に耐えうる感度(ppbレベル)の抗体が得られるまでハプテン合成の最適化を行う。抗体が標的農薬の分子構造を特異的に認識し、定性されるように標的農薬リンカーを導入し、ハプテン群を触媒的炭素-炭素、炭素-酸素、炭素-窒素結合生成反応を利用して合成した。触媒的炭素-炭素結合生成反応においてジアゾエステル類の触媒的カルベントランスファー反応においても優れたルテニウム系触媒を見出している。ルテニウム触媒はRu-Pheoxは、酢酸基やアミド基をリンカーとして導入することができることが明らかとなった
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、標的低分子農薬である有機化合物をアルブミンやスカシ貝等の担体蛋白質に共有結合させ得られたハプテン群は堀場製作所(株)に依頼しマウス免疫により抗体作成を行なう。得られた抗体はモノクロナール抗体としてイムノクロマトキット法にセットアップする。以上のプロセスにより農薬ハプテン合成-タンパクとの融合-マウス免疫-抗体作成-農薬分子センサー化を行う。抗体作成にともない標識農薬ハプテンが必要でありこれらを合成する。標的はイソキサチオン誘導体の合成、イマザリル誘導体、トリフルミゾール誘導体、フェニトロチオン誘導体、マラチオン誘導体、クロロタロニル誘導体、ボスカリド誘導体、フィプロニル誘導体などの農薬ハプテン合成を随時行う。これら一群の農薬は近年、分析依頼の頻度、重要性ともに最も社会的要求度の高い農薬である。
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Causes of Carryover |
溶媒の購入費用として計上したが、定年退職に伴い3月中に研究を一旦停止したため27,228円分の次年度使用額が生じた。翌年度分はシニアリサーチャーとして認められたので研究に従事し翌年度分として計上した助成金と合わせてアセトンなどの溶媒とし使用予定である。
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