2021 Fiscal Year Research-status Report
局在ニトロキシドラジカル骨格を含むπ共役系ポリマーを基盤とする磁性半導体の創製
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20K05609
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
吉岡 直樹 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30222392)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 安定有機ラジカル / 電子機能 / 構造ー磁性相関 / 磁性半導体 / 有機結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、安定な局在型スピン中心をもつπ共役系ポリマーを研究対象として、共役骨格の酸化または還元によりポーラロンなどのキャリアを発生させ、スピントロニクス研究の端緒となった強磁性金属から常磁性金属へのスピン偏極電子を有機高分子系で検証するのに適した物質系の探索することを大きな目標に据えている。具体的には、PEDOTやD-A型チオフェンポリマーの従来知見を活用し、バンドギャップを共重合のプロセスで制御し、ミクロ系の分子軌道計算とマクロ系のバンド計算を相補的に活用する。本研究課題では、イオンラジカルであるポーラロンをスピン伝達するための非局在スピンとして用いているので、金属磁性体のように局在スピン(ニトロキシド部位) と非局在スピン(ポーラロン)を共存させ、局在スピン部分の化学的安定性を維持した状態で、長距離の磁気秩序を実現することを目指している。 令和3年度には、令和2年度に合成経路を確立したジアザTMIO骨格を縮環導入したチオフェンモノマーを用いて、Suzuki-Miyauraカップリング反応などを利用してチオフェンやエチレンジオキシチオフェンを導入した局在スピン中心を1つ含むオリゴチオフェン誘導体を合成しその電子状態を検討した。分光学的測定より、顕著な分子内CT吸収帯の出現しを確認し、ジアザTMIO骨格が電子アクセプター、導入したチオフェン、エチレンジオキシチオフェン骨格が電子ドナーとなっていた。また電子構造解析より、オリゴチオフェン誘導体のHOMOに比べ、局在ニトロキシドのSOMOはエネルギー的に安定であり、望む電子状態が構築可能であることを明らかにした。オリゴチオフェンを化学的に酸化しカチオンラジカル状態にすると溶液ESRスペクトルに大きな変化が現れ、局在ニトロキシドと共役主鎖上のカチオンラジカル種間に強い電子的な相互作用が存在することを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
局在ニトロキシドであるピロリンオキシルが直接縮環したチオフェン誘導体をモノマーの合成を当初計画したが、合成ステップ数、収量などを鑑みジアザTMIO骨格を縮環した誘導体を局在スピンを有する誘導体をモノマーとした。令和3年度は、これにチオフェンおよびエチレンジオキシチオフェンをカップリングしたオリゴチオフェン誘導体の電子状態を中心に検討した。その結果、分光学的には分子内電荷移動吸収帯が観測され、ジアザTMIO部位が電子アクセプターとして機能していることを明らかにすることができた。化学的にこれらオリゴチオフェン誘導体を酸化すると、連結したチオフェン骨格また分子両末端の置換基に応じて興味深い特性が見られた。各種条件下で検討した結果、エチレンジオキシチオフェンを導入すると、溶液中でカチオンラジカル種を安定に観測することを見出すことができ、局在ニトロキシドとカチオンラジカル種が共存したオリゴチップフェン誘導体が生成することを見出した。この状態における溶液ESRスペクトルでは、局在ニトロキシドの超微細結合定数が半減しており、化学的酸化により電子状態が大きく変化していることがわかった。貧溶媒を加えオリゴマーを析出させると、オリゴチオフェン骨格上に非局在化したカチオンラジカル種は消失し、局在ニトロキシドのみが固体磁気特性に寄与することが示唆された。このため、局在ニトロキシドとカチオンラジカル間の磁気的相互作用を定量的に評価するには至らなかったが、分子軌道計算より両スピンの相互作用は弱く強磁性的にカップリングしていることが明らかとなった。今後は、本研究課題で重要な非共役骨格を介した磁気的相互作用に関する基礎的知見を合成化学と計算化学の両面から議論していく。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に、局在ニトロキシドとオリゴチオフェン上に非局在化したカチオンラジカル種間に磁気的相互作用を示していることを示唆する実験結果および両スピン間の相互作用は計算化学的に弱く強磁性的であることを明らかにした。 令和4年度においては、前年度の知見を確実に確認することを目的として、局在スピンユニット2個をエチレンジオキシチオフェンで連結した誘導体を対象として、局在スピン間の相互作用に及ぼす非局在スピンの影響を明らかにする。分光学的性質、電気化学的測定から電子状態を評価し、溶液ESRスペクトルの超微細構造に由来するスペクトルパターンから議論する。さらに、磁気特性の温度依存性などから磁性半導体としての挙動についても検証していく。非局在スピンの化学的安定性は必ずしも高くないので、溶液中での化学的酸化以外に分子間の電子移動を抑制した固体状態での酸化も試み、固体磁気特性の及ぼす非局在スピン導入の効果を明らかにする。局在ニトロキシドとカチオンラジカル種間の磁気的相互作用が計算化学的に強磁性的であったことは、分子磁性体構築の上で重要な基礎的知見となりうる。特に、非共役骨格を介した相互作用がどのような様式となるかに関する先行研究はほとんどないので、局在ニトロキシドと非局在ニトロキシドが縮環したモデル分子を設計し、定量的評価をおこなっていく。 以上より、局在ニトロキシドラジカル骨格を含むポリチオフェン型π共役系ポリマーの電子状態と磁性有機半導体としての特性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
国内および国際会議がオンラインで実施され旅費に関する支出がなかったため。
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