2020 Fiscal Year Research-status Report
金色調光沢を発現する3-メトキシチオフェン重合体の新展開
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20K05614
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
星野 勝義 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (50192737)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 金属調光沢 / オリゴチオフェン / ラメラ結晶 / 溶液塗布膜 / 導電性ポリマー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度の研究計画に従い、①アクリル樹脂と3-メトキシチオフェン重合体のブレンド膜作製において、アクリル樹脂の分子量を2,000から996,000まで変え、得られたブレンド膜の光学物性を測定する、および②水溶性チオフェン重合体の合成条件を変え、塗布膜の光学物性との相関を調べる検討を行った。項目①においては、いずれの塗布膜とも表面が黒色光沢色、裏面(ガラス基板と接する面)が金色調光沢色となった。測色の結果、表面はa*,b*色度図においてその色座標はほぼ原点に位置し、可視光全波長域において正反射を示し、黒色光沢となることを確認した。項目②においては、チオフェン重合体の重合酸化剤に塩化鉄(Ⅲ)無水和物および塩化鉄(Ⅲ)六水和物を用いたところ、前者では正反射率28%を示すCl-イオンがドーピングされた金色調光沢膜が得られ、後者では正反射率40%を示すCl-およびFeCl4-イオンがドーピングされたブロンズ調光沢膜が得られた。そして、その機構の検討を行った結果、前者の膜は、後者の膜に比べて金属調発現構造であるエッジオンラメラ微結晶の量が少ないために反射率が相対的に低く、ラメラ層間距離が広いことに起因して金色調発現に都合がよい光学定数スペクトルをもつことが判明した。一方、後者の膜は結晶量が多いことに起因して反射率が高く、またラメラ相関距離が狭いことに起因して光学定数スペクトルがブロンズ発現に都合がよいスペクトル形をもつことが明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の研究計画研究項目①(アクリル樹脂とチオフェン重合体において、アクリル樹脂の分子量条件を変え、塗布膜の光学物性との相関を調べる項目)については、アクリル樹脂の分子量を2,000, 15,000, 35,000, 350,000および996,000と変えてチオフェン重合体とのブレンド膜を作成し、予定通り膜表面が黒色、裏面が鮮やかな金色調光沢色となるサンプルを作成できた。そして、計画通り、それらサンプルの測色と反射率のデータを取得した。すなわち、令和3年度以降に実施予定の膜の構造・形態解析に対する準備を整えることができた。 令和2年度の研究計画研究項目②(水溶性チオフェン重合体の合成条件を変え、塗布膜の光学物性との相関を調べる)については、異なる2種の酸化剤を用いて合成した2種の水溶性チオフェン重合体は、金色調とブロンズ調の色度をもつ塗布膜を与えた。そして、その重合体の詳細な物性測定を行い、論文報告を行った。その結果、論文掲載元の米国化学会からニュースリリースされるとともに国外10のメディアに紹介された。さらにその続編として、当初の計画通り、酸化剤滴下時間を変えて、重合体の合成を行った。その結果、重合体塗布膜の色を金色調からブロンズ調まで変えることができる実験結果が得られた。次いで、重合体塗布膜の光学物性特性(測色および反射率の測定)を測定し、令和3年度以降に実施予定の膜の構造・形態解析に対する準備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度においては、2つの大きな検討項目を設定したが、いずれも計画通り順調に進展している。そして、その項目を進める過程で、予期せぬ興味深い事象を見出すことができた。すなわち、水溶性のチオフェン重合体を合成する際に、滴下時間を変えた検討を行ったところ、滴下時間が短いほどその塗布膜の色度が金色調となり、滴下時間が長いほど膜の色度がブロンズ調になることを見出すことができた。この発見は、滴下条件という非常に簡便な条件制御で、塗布膜の金属光沢色を金色調からブロンズ調まで段階的に変えることができることを示しており、学術的にも工学的にも重要な知見であると判断される。 研究項目①において、令和2年度は計画通り進行したので、令和3年度は計画通りブレンド膜の薄膜X線回折測定(XRD)によりラメラ微結晶の存在の有無を確認する。さらに、膜の表裏両面についてX線光電子分光分析(XPS)を行い、チオフェン重合体の存在比率を調べる。また、塗布膜断面のエネルギー分散型X線分光分析(SEM-EDX)を行い、ラメラ微結晶の膜厚方向の分布状態を定める予定である。 研究項目②においても計画通り進行しているので、当初の計画に従い、金色調からブロンズ調にわたる塗布膜のXRD測定およびゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の分析を行い、膜中のラメラ結晶の量や重合体分子量が色度に及ぼす影響について検討する。 令和3年度以降には、新規項目として水溶性チオフェン重合体と水溶性透明樹脂のブレンド膜作製にとりかかる。水溶性透明樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリエステル等を選定し、まずはその色度や光沢がどうなるのかを検討したい。
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Remarks |
千葉大学工学研究院星野勝義研究室ホームページ http://hoshino-nanoelectrochem.tp.chiba-u.jp/
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