2020 Fiscal Year Research-status Report
Formulation of a dynamically correlated network model and investigations of dynamics in ultrathin polymer films
Project/Area Number |
20K05615
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
佐々木 隆 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (50242582)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 動的相関領域 / 高分子超薄膜 / シミュレーション / 過冷却液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はネットワーク状動的相関領域(DCN)という考えに基づいて、過冷却液体のガラス転移現象のメカニズムの解明を行い、それをもとに高分子超薄膜の動的物性と熱物性のメカニズム解明を目指すものである。今年度は、①DCNモデルの基本構築と高分子性の導入、および②チップカロリメトリにより高分子超薄膜のダイナミックスの実験データの収集を行った。 ①では、最大配位数6の動的結合を有するセグメントを単純立方格子上に配置したモデルを提案した。配位数nのセグメントが生起する確率が動的結合エネルギーに基づくボルツマン分布則に従うとして、Monte Carloシミュレーションによりネットワークを発生させ、その統計解析を行った。その結果、トルエンなどの分子性ガラスについて、緩和時間の温度依存性データを定量的に説明できることがわかった。また、ネットワークのフラクタル次元は2程度で弱い温度依存性があること、動的不均一性は温度の低下とともに増大することなどが示された。高分子(ポリスチレン)についても同様に緩和時間データを定量的に再現できることがわかった。動的相関の結合エネルギーはポリスチレンの方がトルエンよりも3倍程度大きいことがわかった。これは、後者における高分子性を反映していると思われる。さらに、ネットワークサイズが発散するパーコレーション温度が存在することがわかった。この温度は熱力学的な理想ガラス転移温度に対応すると考えられ、本モデルがガラス転移メカニズムの解明に重要な知見を与えうるものであることを示す。 ②については、様々な実験を行った結果、チップセンサーへの薄膜試料のマウントの仕方を改良することができた。これにより、いくつかの高分子薄膜について動的相関領域のサイズを含めたガラス転移ダイナミックスの予備的な実験データを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DCNモデルの基本構築において、緩和時間の実験データをかなり定量的に説明できる結果が得られた点は想定以上の進展であったとおもわれる。また、高分子性の導入に関してもアイデアの見通しが得られたこと、低分子の単純なモデルを用いても高分子の実験データをかなりよく説明できたことなども大きな進展であった。一方で、実験に関しては試料のマウント手法に問題が生じたため、良好な実験データを得るのが当初の予定よりも遅れている。以上の2点を総合的に勘案すると、研究全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の取り組みとしては、まず本研究のDCNモデルをさらに発展させて、重合度などの高分子に特有のパラメータを組み込むこと、および高分子超薄膜に適合するようにモデルを発展させることである。これらを行うためのアイデアの大枠はすでに発案済みであり、今後はさらなる詳細の検討を行う予定である。 実験に関しては、前年度で培ったチップナノカロリメトリについての試料マウント手法のノウハウを用いて、膜厚が異なる多数の高分子薄膜試料についてガラス転移ダイナミックスの測定を行う。膜厚評価技術についても高精度化を図る。さらに、誘電緩和などの他の実験や、吸着実験なども試みる。このようにして得られたデータと文献データをあわせて、DCNモデルからの理論的予想(とくに膜厚依存性)との比較検討を行い、これによるモデルの改良を行うことで、高分子超薄膜の動的物性と熱物性のメカニズム解明を目指す。
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