2020 Fiscal Year Research-status Report
分子ダイナミクス計測による架橋高分子材料の強靭化メカニズム解明
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20K05627
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
眞弓 皓一 東京大学, 物性研究所, 准教授 (30733513)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤本 和士 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70639301)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高分子ゲル / ポリエチレングリコール / 中性子準弾性散乱 / 分子動力学シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、4分岐ポリエチレングリコール(PEG)鎖を末端架橋することで得られる均一高分子ゲルの伸長時における分子鎖ダイナミクスを中性子準弾性散乱測定によって調べた。均一高分子ゲルを延伸した状態でセルに固定し、延伸倍率を様々に変化させて実験を行ったところ、ゲルの延伸によって高分子鎖のセグメント運動の平均緩和時間が短くなることが明らかとなった。この原因を理解するために、バネ・ビーズモデルを用いた粗視化分子動力学シミュレーションによって高分子1本鎖を伸長した際におけるセグメント運動を解析した。シミュレーションからは、伸長によって高分子鎖のセグメント運動は遅くなり、高分子鎖の局所運動が抑制されるという結果が得られた。これは、中性子準弾性散乱測定とは逆の結果である。中性子準弾性散乱測定によって観察された伸長によるセグメント運動の加速は、粗視化シミュレーションでは捨象した情報に起源があるものと考えられる。そこで、より現実に即したシミュレーションを行うために、水中におけるPEG1本鎖の全原子分子動力学シミュレーションを開始した。全原子シミュレーションでは、水・PEG間、PEG・PEG間といった分子間相互作用も考慮することが可能となり、このような分子間相互作用が、PEG鎖の伸長によってどのように変化するのかを解析することで、中性子準弾性散乱測定によって観察された興味深い現象の本質的理解に迫る予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
均一な網目構造を有する高分子ゲルの伸長下におけるセグメント運動を中性子準弾性散乱法によって実測し、さらに分子動力学シミュレーションを用いた解析を進めている。現時点では粗視化分子動力学シミュレーションの結果と中性子準弾性散乱測定結果の間に乖離があるが、これは粗視化シミュレーションによって捨象した情報に現象の本質があることを示唆するものであり、大変興味深い。現在は、全原子分子動力学シミュレーションを用いることで、溶媒和の効果も含めた分子ダイナミクス解析を開始しており、実験で観察された現象の本質的な理解を目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引く続き、水中におけるPEG一本鎖における分子ダイナミクス解析を全原子分子動力学シミュレーションによって進める。PEG・水間、PEG・PEG間などの分子相互作用が伸長下におけるPEGのセグメント運動にどのような影響を及ぼすのかを詳細に解析する。さらに、網目構造に不均一性を導入した高分子ゲルの中性子準弾性散乱測定結果に対する解析を進め、網目構造の不均一性が延伸下におけるセグメント運動、さらにはマクロな力学物性に対して与える影響について考察する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって、高分子ゲルの調整条件検討に遅れが生じ、その分の消耗品代などが次年度に繰り越しとなった。2021年度は、不均一性を様々に変えた高分子ゲルについて調整条件の最適化を行った上で、ミクロな分子ダイナミクス計測に加えてマクロな力学物性測定も行い、さらに分子動力学シミュレーションによる伸長下における高分子鎖の局所運動解析も実施する。
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