2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K05634
|
Research Institution | Chitose Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
下村 政嗣 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 教授 (10136525)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平井 悠司 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 准教授 (30598272)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | バイオミメティクス / ウバウオ / 吸盤 / 接着 / ナノフィラメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では水中でも可逆的かつ素早く吸脱着可能なウバウオの吸盤に着目、人工的に模倣材料を作製することでその吸脱着メカニズムを材料学的に解明するとともに、水中でも可逆的に吸脱着可能なウバウオ模倣接着材料を開発することを目的としている。令和2年度は吸盤模倣材料を作製し、その吸着力の測定と構造パラメータの検証、さらに有限要素法によるシミュレーションを行った。ウバウオの吸盤を構成しているナノフィラメントは、陽極酸化アルミナ(AAO)を鋳型として用いてポリスチレンで作製、そのナノフィラメントを粘液模倣材料としてシリコーン樹脂で包埋することで作製した。作製したウバウオ模倣材料は大気下および水中でも同様に強い接着力を示し、さらにナノフィラメントが長く硬いほど、シリコーン樹脂が柔らかいほど強い吸着力を示すことが明らかとなった。一方で粘液模倣シリコーン樹脂のナノフィラメント表面へのはみ出し厚みはシリコーン樹脂の柔軟性に依存し、柔らかさに応じて最大吸着力を示す最適値があった。また有限要素法を用いた変形応力シミュレーションにより、ナノフィラメント構造のない場合は剥離させようとすると吸着界面端に強い変形応力が生じ、容易に剥離するであろう傾向が見られたが、ナノフィラメントを形成させると変形応力がナノフィラメントに分散し、変形応力が強く集中する場所はなくなっていた。したがって、この変形応力の分散によってウバウオ模倣構造が強い接着力を生み出すことが確認された。このようにウバウオ吸盤模方材料の作製に成功し、シミュレーションによってその原理も説明できたため、2020年度 第55回北海道支部研究発表会にてその成果を発表するとともに、学術論文としても投稿(査読)中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
吸着メカニズムの解明や模倣構造作製については申請時の予定よりも早く達成し、学術論文として投稿(査読)中の段階まで進めたが、新型コロナウィルスの影響でサンプル採集に行くことが出来ず、令和2年度にも実施予定であった魚類サンプルのナノスーツ法観察を行うことが出来なかった。したがって、研究室で行える模倣構造作製研究については当初の計画以上に進展しているが、一部研究項目については進めることが出来なかったため、申請研究全体の進捗状況としては「おおむね順調に進捗している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年度の研究成果によって、ウバウオ吸盤の吸着メカニズムがおおよそ解明され、強い吸脱着に必要な要素としては、吸着面に対して柔軟に変形することで大きな接着界面を生み出すことができる「柔らかさ」と、剥離するときに発生する変形応力を材料全体へ効率的に分散させる事ができる「硬さ」である。この相反する材料特性を如何にして両立させるかが重要な要素であり、ウバウオは「硬い」ナノフィラメントを「柔らかい」粘液で覆うことで達成しているが、実際に材料としてはこれらの構造を完全に模倣する必要はない。今後は変形時の応力分散をシミュレーションによって網羅的に解析し、例えばある方向には強く吸着するが、他の方向には容易に剥離可能な吸脱着異方性材料や、生体内での使用や環境中に放出されても問題のない生分解性高分子などを利用して模方材料を作製する。一方で、新型コロナウイルスの状況によるが、令和2年度に実施できなかった生物サンプルの採集とナノスーツ法観察によって水棲生物の吸盤のナノ・マイクロ構造を観察し、液中吸脱着に求められる構造・材料要素を抽出・整理し、様々な分野に適用可能な接着材料の多様化・最適化を図る。
|
Causes of Carryover |
研究費の残金は一桁の金額であり、無理な使い切りをしなかった結果である。次年度予算の一部として適切に使用予定である。
|