2020 Fiscal Year Research-status Report
ハロゲン元素の特性を協同的に利用した電気伝導性光沢材料の開発
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20K05642
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
松本 祥治 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (50302534)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ハロゲン結合 / チオアミジウム塩 / チアゾロイソキノリニウム塩 / ヨウ素 / 電気伝導性 / 対アニオン |
Outline of Annual Research Achievements |
ヨウ素環化反応によるヨウ素原子を導入したチオアミジウム塩合成において,脱保護によるヒドロキシ化を経た双性イオン化が可能な置換基を導入した化合物について検討した。置換基としてメトキシ基およびアセトキシ基について反応を行ったところ,従来の無置換体と異なり,対アニオンとしてヨウ化物イオンとトリヨウ化物イオンをもつ塩の形成が確認された。対アニオンの比率について検討したところ,置換基の電子供与能が高くなるに従って対アニオンがトリヨウ化物イオンとなる傾向が見出された。また,単結晶X線構造解析の結果,いずれの化合物においてもカチオン性構造上のヨウ素原子と対アニオンのヨウ素原子間にハロゲン結合が確認された。ペレットを作製して電気伝導度を測定したところ,ヨウ素雰囲気下において無置換体に比べて10倍程度の電気伝導性を示すことが明らかになった。チアゾロイソキノリニウムと比べると,ハロゲン結合を有した化合物よりは高い電気伝導性であったが,ハロゲン-ハロゲン相互作用にとどまったチアゾロイソキノリニウム塩よりは低い値となった。このことから,ハロゲン結合を制御することで電気伝導性を制御できる可能性が示された。 ヨウ素環化反応においてヨウ素当量を変化させた検討も行ったが,得られた化合物の外観に変化はなく,ペレット化を経ても光沢は確認されなかった。 チアゾロイソキノリニウム塩構造の双性イオン化を目指し,環化前駆体として三重結合末端にカルボキシ基を導入した化合物の合成を検討した。薗頭カップリング反応による三重結合導入の段階で,三重結合導入とともにチアゾール環が分解してシアノ基への変換する反応が起こった。カルボキシ基を持たない場合にはチアゾール環の分解は確認されないことから,カルボキシ基の電子求引性が分解を誘発したと示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チオアミジウム塩化合物において,脱保護による双性イオン構造構築には至っていないが,ハロゲン結合を制御するうえで有用な知見を得ることができた。さらに,当該化合物の電気伝導性について,これまでに電気伝導性を達成しているチアゾロイソキノリニウム塩化合物と異なる構造においてもハロゲン結合がある場合に良好な電気伝導性を与えないことを見出すことができた。また,ヨウ素との複合体化に至っていないが,ヨウ素雰囲気下にて電気伝導性を獲得できたことから,チオアミジウム塩化合物においても良好な電気伝導性を発現できる可能性を見出すことができた。 チオアミジウム塩化合物については,脱保護による双性イオン化には至っていないが,メトキシ基やアセトキシ基には複数の脱保護の方法があるため,それらの検討により相性イオン化の達成を目指すことができる。また,脱保護検討時に窒素上の置換基が脱離したと考えられる反応も生じていたことから,窒素上の置換基を変更することでの双性イオン化合物創出の可能性も見出すことができた。 チアゾロイソキノリニウム塩化合物において,環化前駆体合成において予想していなかった分解反応が起こり,目的化合物合成には至らなかった。しかしながら,置換基の性質が分解反応に起因していることを見出しており,このことから置換位置の変更による対応にて目的化合物合成が可能と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
チオアミジウム塩化合物の脱保護による双性イオン化を実施する。そのうえで,ヨウ素との複合体化による電気伝導度への影響について検討する。複合体化した化合物の単結晶X線構造解析を行い,結晶構造から電気伝導性についての知見を得る。また,当該双性イオン化合物のヨウ素原子近傍の相互作用について詳細に検討し,ネットワーク形成における役割について明らかにする。ヨウ素と複合体化した化合物の固体状態での吸収・反射スペクトル測定により,複合体前後での変化について検討するとともに光沢の有無について確認する。 チアゾロイソキノリニウム塩化合物についてはカルボキシ基の置換位置を変えた化合物についての合成を検討し,ヨウ素環化反応によるチアゾロイソキノリニウム塩およびその双性イオン化を行う。そのうえで,ヨウ素雰囲気下およびヨウ素複合体における電気伝導度について調査する。こちらについても単結晶X線構造解析に基づく検討を行う。 両化合物ともに脱保護による双性イオン化を目指しているが,脱保護を施している部位が異なるため,一方で脱保護―双性イオン化が達成できれば,その部位への置換基導入による双性イオン構造の合成へと利用できる。 これまでの検討では,光沢を示す化合物・複合体形成に至っていないため,これまでに光沢を発現した複合体の分子構造への変化という方面からの検討も行う。具体的には,光沢を発現したヒドロキシチアゾロピリジニウム双性イオン化合物の硫黄原子を窒素原子へと置換した化合物について検討する(酸素置換体については光沢を発現しないことは検討している)。窒素原子に置換することで窒素上への置換基導入も可能となるため,物性制御の上でも有用な化合物となる。 以上の検討により,新規双性イオン構造の構築とヨウ素を用いた電気伝導性発現の達成,さらには電気伝導体におけるハロゲン原子の役割について検討する。
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