2021 Fiscal Year Research-status Report
ソフトプロセスによる金属酸化物中への酸素欠陥導入および欠陥量制御手法の開拓
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20K05659
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
松本 太輝 宇都宮大学, 機器分析センター, 准教授 (00419417)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 酸素欠陥 / 酸化チタン / 酸化ジルコニウム / 光触媒活性 / ORR活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
既報に従い、独自に合成した「低次元成長金属酸化物」を出発物質とし、窒素源としてヒドロキシルアミンを複合化した後、温水による後加水分解、洗浄、乾燥後、真空中で焼成することによって、ソフトなプロセスにより金属酸化物中に積極的に酸素欠陥を導入するプロセスを見出し、本手法を適用することにより、酸素欠陥が多量に導入されたと考えられる、酸化チタンおよび酸化ジルコニウム粉末の合成に成功している。 昨年度は導入した酸素欠陥を再酸化するプロセスを開拓したことで、酸化チタン系において結晶性、比表面積、窒素ドープ量等がほぼ同等でありながら、酸素欠陥量だけが連続的に異なる一連の試料を合成することができた。本年度はこれら一連の試料に対して可視光照射下での光触媒活性を評価し、適量の酸素欠陥が光触媒活性を増大させる一方で、過剰の酸素欠陥が光触媒活性を低下させるという酸素欠陥量依存性を示すことを見出し、光触媒活性が酸素欠陥量に対して極大値を示すことから、励起電子の欠陥トラップに基づく光触媒反応に対する酸素欠陥の作用機構を詳細に議論した。 一方、昨年は酸化ジルコニウム系においては同様の再酸化による酸素欠陥量制御ができなかった。本年度は新たな制御手法の開拓に取り組んだところ、焼成時の真空度を変化させることにより導入される酸素欠陥量を制御する新たな手法を見出した。 また絶対的な酸素欠陥量の評価手法を新たに開拓し、酸化ジルコニウム系に適用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸化チタン系においては、導入された酸素欠陥を含酸素気流下で再酸化することで酸素欠陥量が精密に制御された一連の試料に対して、各試料の可視光照射下における光触媒活性を評価し、ESRスペクトルより算出した欠陥トラップ電子数に対してプロットしたところ、欠陥トラップ電子数1~2×1014付近で光触媒活性の極大が得られた。適量の酸素欠陥は試料表面で電子トラップとして作用し、速やかな表面吸着物質への電子注入を促進し、光触媒活性を向上させる一方で、過剰量の欠陥はバンドギャップの深いエネルギー準位に局在化し、電荷キャリアの再結合中心として作用するため、光触媒活性を低下させるものと考えられる。また、欠陥トラップ電子数が同程度の場合、高真空下で焼成した試料がより高い活性を示した。試料内部に残存するバルク窒素が再結合中心として作用し、光触媒活性を低下させるものと考えられる。 一方で、酸化ジルコニウム系においては含酸素気流下での再焼成を行っても酸素欠陥量の制御はできず、酸化ジルコニウムは酸化チタンと比較して導入された酸素欠陥が酸化を受け難いものと考えられる。そこで、前駆体粉末を種々の真空度で焼成したところ、真空度が高くなるほど複合化した窒素の脱離が促進され、より多くの酸素欠陥が導入できた。酸化ジルコニウム系における新たな酸素欠陥量制御手法を開発できたものと結論づけられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ESRシグナルのピークや試料の着色の強度から判断する限り、本研究で開発した手法により合成した酸化チタンおよび酸化ジルコニウムには大量の酸素欠陥が導入されていると考えられるがその絶対量はこれまで不明であった。そこで本年度は、試料粉末をNiパウダーで希釈したのちに、熱分解元素分析装置によって酸素量を分析することで酸素欠陥量を絶対的に測定する新たな手法を開拓し、酸化ジルコニウム系に適用できた。今後は酸化チタン系にも同手法を展開し、酸素欠陥量の絶対量を明らかにする計画である。 光触媒活性の評価装置の構築を進め、酸素欠陥量の制御を達成している酸化チタン系に関しては光触媒活性のさらなる評価を進め、酸素欠陥量の影響の明確化と作用機構の解明を進める。また得られた試料のORR活性評価を行うために、試料粉末の電極化にも取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
合成に必要な消耗品の納入が遅れ、年度内に入手することができなかったため。
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