2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on new functional enhancement methods of itinerant ferromagnets in transition-metal pnictides
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20K05663
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
太田 寛人 京都大学, 工学研究科, 講師 (60546985)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 遍歴強磁性 / 遷移金属ニクタイド / 局在磁気モーメント |
Outline of Annual Research Achievements |
①サブナノシート磁石の研究では、層状化合物であるLaCoAsOのCoAs磁石層の厚さと層内でのCo間の距離を様々に変えて構造と強磁性状態の関係を第一原理計算により詳しく調べた。その結果、まず安定な構造に関して、層の厚さとCo間距離に逆相関の関係があることがわかった。またCo間距離が遠くなる程強磁性は増強される一方で、層の厚さに関しては厚くても薄くても強磁性が抑制されることがわかってきた。したがって、層内の格子サイズの効果は従来の遍歴強磁性の理論で説明が付くが、層の厚さに関してはニクトゲンと遷移金属の化学結合の強さに依存するという化合物的な性質が現れていることが分かってきた。 ②局在磁気モーメントの誘起に関して、これまでY2Fe3Co9P7などでCoが遍歴強磁性の誘起に関してし、Feはその増強を担うことがわかってきている。CoをNiやFeに置き換えると強磁性を失いパウリ常磁性になることが期待されるが、Y2Fe3Ni9P7ではFeが局在性の強い磁気モーメントを維持しており、低温でスピングラス状態に転移することがわかった。これは、Feが占めるPのピラミッド型配位のサイトでは3d電子が高い局在性を示し、一方のPの四面体方配位のサイトの3d電子が磁性を持たない場合でもその磁気モーメントが安定して存在することを示している。同様にFeをMnに置き換えた場合もスピングラスを示すが、Crに置き換えたY2Cr3Ni9P7ではフェリ磁性秩序と思われる磁気秩序が実現した。ピラミッドサイトの磁気モーメント間の相互作用は占有する元素によって性質も強さも異なることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はコロナウイルスの蔓延のために研究活動が制限され、研究手法も大幅に狭められた。しかし、代替手段を用いるなどして想定よりも順調に研究を進捗させることができた。結果として当初の計画と比べても概ね順調と言える程度に研究を進めることができたと言える。特に研究時間や研究リソースが従来より限られていたため、実際の実験を②のテーマに集中し、①のテーマに関してはバンド計算ソフトを用いた第一原理計算を行うことで研究を進めた。これにより上記のように良好な研究の進捗を達成できた。 ①の層状遍歴強磁性体の研究ではこれまで蓄積された実験データを活かす意味でも、電子状態の計算が進んだことで全体として研究が進捗したと考えている。 ②のピラミッドサイトの3d電子の性質の理解については、新しい元素を組み合わせた物質が順調に得られており、ピラミッドサイトの3d電子が高い局在性を持つことがかなり分かってきた。またこの局在性の高い磁気モーメント間の相互作用にバリエーションがあることも分かってきた。当初予定していたメスバウアー分光やμSRの測定も少しずつ進んできており、誓ううちにまとまった結果が得られると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は引き続き②のテーマを中心に研究を進めていく。特に2年目から所属が変わったため、まずは研究設備の立ち上げ、整備から始める必要がある。その後、新物質探索を中心に実験を進めていく予定である。一方で、第一原理計算に用いる計算機は異動後もすぐに利用できるので、①と②両方のテーマに関して、研究設備の立ち上げの間に第一原理計算も進めていく。 異動先の設備の中には高圧合成装置やプラズマ焼結装置など研究計画の立案時には想定していなかった装置がいくつかあり、それらを使うことで新規物質探索の探索範囲を広げられると考えている。 ①実験で得られた層状物質の強磁性と第一原理計算の結果とを比較し、物質の本来の磁性の強さと実験的なずれの原因を明らかにする。一部のCoAs層を含む物質では層間の酸化物層に欠損の可能性が考えられ、その影響を第一原理計算と比較し検討する。次に層間に局在磁気モーメントを導入し、その影響および強磁性層との相互作用に関して計算により解明を目指す。 ②上にも書いたように物質探索を進める。計画書にあるホモロガス相に加えて、比較物質として構成するパーツは同じでそれらの配置が異なる「構造異性体」についても合成と物性測定を行う。また、多結晶試料が得られている物質に関しては、より精度の高い情報を引き出すために単結晶化を目指す。
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Causes of Carryover |
旅費および実験用の消耗品の購入量が当初計画に比べて少なくなり、その分の差額が生じたため、次年度使用額が生じた。次年度に回した消耗品・旅費は、異動先の実験設備の立ち上げ、原料試薬等の購入に当てる予定である。特に原料試薬に関して、当初計画より金額が増えたので、その分様々な元素に物質探索の範囲を広げられる。計画が変更になったが、全体としては滞りなく研究は進められる予定である。
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