2020 Fiscal Year Research-status Report
Dislocation dynamics and link mechanism of ring crystal in low dimensional conductors
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20K05669
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
坪田 雅功 学習院大学, 理学部, 助教 (50626124)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 結晶成長 / 結晶核 / MX3 / 転位 / 準安定 |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属トリカルコゲナイドMX3(M=Nb, Ta, Mo; X=S, Se, Te etc)は擬一次元的な伝導特性を有する単結晶として知られており,低次元導体特有の現象である電荷・スピン密度波や超伝導との共存等の研究が進められている.この結晶は単軸に沿って大きく成長し,針状の形状になることが知られている.近年、合成条件により結晶の端が接合したリング形状に成長することが明らかになったが,結晶内に含まれる欠陥の構造や針状結晶の端がどのように結合するかは未だに分かっていない.そこで,結晶成長過程をその場観察によって明らかにすることを目的とした. 石英管を洗浄後ベーキングしたアンプルと,原料であるTa粉末を壁面に付着させたアンプルでは,結晶合成で用いた気相輸送(CVT)法における結晶の生成や成長に違いが現れた.針状結晶の核が密にある場合は,リングの生成頻度が低くなった.針状結晶は転位等の欠陥が少ないことが既に知られており,針状結晶の成長が優先された結果,リング状に成長する時間間隔が得られなかったためと考えられる.つまり,リング状の結晶は準安定状態であり,針状結晶からの変化は,カルコゲンの液滴やガス対流,石英アンプルの曲率に依存したゆらぎの影響が大きいと言える.液滴はアンプル内で凝縮・蒸発を繰り返している状態のため,非平衡場であるアンプル内で同じ箇所に長時間留まることは難しい.また,液滴には原料だけではなく結晶も溶解するため,過飽和な液滴がCVT法による結晶成長過程で影響している.CVT法による結晶成長において,温度勾配を反転することで原料供給の流れを変え,微結晶を分解し,再度反転し大きな結晶を得る方法はよく知られているが,液滴による分解過程を考える必要があるというのは,これまで深く議論はされていなかった.これらの観点は,次年度以降の研究を進める上で重要な発見である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,元々使用予定であった機器が,国内状況により利用困難になったため,結晶成長のその場観察に関して主に進めた.電子線後方散乱回折(EBSD)による結晶方位解析によって,成長した針状結晶やリング状結晶の結晶面を観察することで,成長速度の考察を行う予定であったが,実験を行えず予定通りに進まなかった.また,透過型電子顕微鏡(TEM)による結晶内に含まれる転位分布の観察も,数個の試料を観察したのみなので成長に関する考察を深めるに至っていない. しかし,光学顕微鏡下で複数結晶の観察結果を解析した結果,針状結晶の成長速度がマイクロメートル毎分オーダーであり,円周長が数十マイクロメートルあるリング結晶が形成されるには10分以上の時間がかかることを見積もることが出来た.これは準安定状態であるリングが,高温の結晶成長環境下において長時間安定して存在可能か検証する必要性が求められる結果であった.そこでリングの形成に重要であると考えられていたカルコゲンの液滴に関して観察を深めた結果,針状結晶の付近に液滴の付着は見られなかった.そのため,液滴に針状結晶が巻き付く成長モデルとは別の成長機構が存在するという新たな知見を得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
国内状況を考慮しつつ,今年度実施予定であったEBSDやTEMを用いた研究を進める.合成した針状結晶やリング状結晶を加熱しながらTEMを用いて観察し,結晶構造と転位の運動を調べる.遷移金属をカルコゲンが取り囲む三角柱構造をとる針状結晶に,欠陥(転位等)が侵入することで曲げが導入されリング状の結晶が成長する.不規則に転位が侵入した場合は,曲げ,のみになるため,転位の配列に規則性があると期待される.そのため転位配列を解析し,その応力場による力学的な解析をすることでリングの形成を明らかにする.転位は内部エネルギーの上昇に伴い運動するため,加熱が可能なTEMを用いて針状結晶とリング状結晶の転位の変化を調べる.基板との接触や周りの結晶との接触,さらに結晶の太さが変化のパラメータとして考えられるため,弾性率の影響を考慮して実験を進める. 上記の計画が進められない場合は,液滴が存在しない,つまり過飽和度を制御した合成条件のもと,リングの新しい成長機構を検討する.これまでの研究により,リング結晶が成長する条件や成長速度が見積もられるため,環境の変化による成長ダイヤグラムの構築を試みる.
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Causes of Carryover |
感染に対する国内状況により,他機関で実施予定であった電界放出型電子顕微鏡の使用や透過型電子顕微鏡の使用に伴う出張の取りやめ,及び,機器使用料の支払いが無かったためである.加えて,上記実験で得られたデータを基に,結晶合成装置の改良,及び観察装置の改良を計画していたが,未実施のため次年度で実験を行い,改良を行う予定である.
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