2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of Fluorochromic Inorganic Materials and Their Application to Fluorescence Sensing Systems
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20K05670
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藤原 忍 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60276417)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 蛍光体 / 希土類元素 / フルオロクロミズム / 光物性 / 表面科学 / イメージング / 化学センサ / 蛍光センサ |
Outline of Annual Research Achievements |
希土類元素を賦活した無機蛍光体材料におけるフルオロクロミズムの発現に関する研究を、材料設計とプロセス構築の双方の立場から多角的に進めた。なお、母体には7種類の結晶、希土類には4種類のイオンを用いた。これらの材料の合成においては、微細構造の制御を主眼として、金属-有機構造体(MOF)の熱分解、ゾル-ゲル法、錯体重合法などを採用した。 Y2O3およびGd2O3では、賦活する希土類イオンEu3+を含むMOF前駆体の粗大結晶粒子を合成し、その熱分解過程の精密な制御によって比表面積が高く階層的な多孔質構造を有する粒子を得ることができた。これらの粒子を種々の化学種を含む水溶液に浸漬し、取り出した後の蛍光強度を測定したところ、過酸化水素および重金属イオンの吸着によって消光することがわかり、蛍光センサへの応用の可能性が示された。 ペロブスカイト型構造を有する4種類の母体材料については、まず、CaTiO3:Pr3+、CaZrO3:Pr3+および両者の固溶体を用いて酸化還元応答性に基づくフルオロクロミズムの発現とそのメカニズムの解明を行った。とくに、複数の励起機構にともなう励起波長の違いを利用して、異なる発光色のフルオロクロミズムの実現に成功した。BaSnO3:Sm3+では、La3+を共ドープした際の蛍光特性および電気特性の変化を評価し、学術論文として公刊した。BaCeO3:Eu3+は今年度から完全に新規に調査を始めた物質であり、少なくとも還元応答性によるフルオロクロミズムの発現が可能であることを確認するに至った。 Y2WO6:Eu3+では薄膜型の水素ガスセンサへの応用を目指し、界面活性剤を導入したゾル-ゲル法を用いて、多孔質で蛍光強度の高い薄膜を作製することに成功した。この薄膜を用いてある程度の水素ガス応答性を確認したので、今後は触媒担持等によって応答性を高めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、フルオロクロミック無機蛍光体の開発に向け、(1)無機蛍光体と外部環境との相互作用機構の設計とフルオロクロミズムの発現、(2)良好なフルオロクロミズムを示す無機蛍光体の微細構造とプロセッシング、(3)フルオロクロミズムに基づくセンシング・イメージングを実現するデバイスの創製、以上3点を理論的考察ならびに実験を通して明らかにしていく計画で研究を進めている。 初年度では従来から継続的に調査を進めてきた6種類と新規な1種類の母体結晶を用いた無機蛍光体材料について、材料設計と合成実験を順調に進めることができた。また、それらのフルオロクロミズムについては、吸着による化学種のセンシング、酸化還元センシング、水素ガスセンシングなどへの応用可能性が見出された。以上のように、当初計画の通り、(1)と(2)に関する部分は順調に進んでおり、次年度以降は(3)への展開を進めていくことにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の2年目となる令和3年度は、フルオロクロミック無機蛍光体に関する研究のうち、特に微細構造に関する部分を進展させる。具体的には、多孔質なCaTiO3:Pr3+球状マイクロ粒子の合成、比表面積の大きなBaCeO3:Eu3+ナノ粒子の合成、多孔質で細孔の形状とサイズを高度に制御したY2WO6:Eu3+薄膜の合成である。また、階層的多孔質構造の開発に成功したGd2O3:Eu3+を用いて、重金属イオンの選択的なセンシングにつながる構造制御とセンシング機構の解明に焦点を当てる。 3年目となる令和4年度には、フルオロクロミズムに基づくセンシング・イメージングを実現するデバイスの創製を目標としながら、フルオロクロミック無機蛍光体の使用環境にも注目し、化学的耐久性や長期安定性など、有機物質に対する無機物質のアドバンテージを最大限に活かして、過酷な条件下でも使用できる光化学素子を提案していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大のため、令和2年4月7日より5月31日まで本大学の理工学部キャンパスは完全に閉鎖された。また、同年6月1日以降も学生には厳しい登校制限が課せられた。このように、令和2年度の前半はほとんど実験ができない状態であったため、物品の購入もほとんど行わなかった。令和3年度も4月現在、コロナ禍における研究室への入室制限が続いているが、年間を通して通常の8割程度の実験は行えると見込んでいる。引き続き、実験に必要な物品を購入するための費用とする。
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