2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of a novel synthesis method of nanomaterials using superheated steam and application to secondary battery electrode materials
Project/Area Number |
20K05672
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
露本 伊佐男 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (60282571)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | モリブデン / 酸化物 / 固相反応 / 正極材料 / リチウムイオン電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
電極材料はリチウムイオンが容易にインタカレート/デインタカレートできるように,粒径が小さく,かつ格子欠陥が少ない方が好ましい。このような電極材料の調製を目指して,従来の固相反応法に加えて,ゾル・ゲル法,メカノケミカル法など様々な合成経路が検討されてきている。本研究は過熱水蒸気による加熱を合成経路に組み合わせることで,粒径が小さく,格子欠陥が少ない金属酸化物を調製することを目的としている。今年度は以下の成果を得た。 これまでに報告されていない結晶構造をもつリチウムモリブデートとカリウムモリブデートを合成することに成功した。空気中で調製した酸化体の組成式はLi0.30MoO3.15,およびK0.30MoO3.15であり,水素中で調製した還元体は示差熱・熱重量測定(DTA-TG)の結果から,組成式がLi0.30MoO2.09,およびK0.30MoO2.14と求められた。酸化体の定電流充放電実験を実施したところ,最初の充電ではファラデー電流がほとんど流れなかったが,その次の放電ではリチウムモリブデート,カリウムモリブデートとも十分な初回放電容量を示した。一方,還元体の場合は最初の充電からファラデー電流が十分に流れた後,リチウムモリブデート,カリウムモリブデートとも十分な放電容量を示した。さらに,カリウムモリブデートの還元体では,カリウムイオンがデインタカレートされた後,リチウムイオンがインタカレートされる様子が観察され,還元体ではリチウムモリブデートとカリウムモリブデートがほぼ同じ放電容量を示した。カリウムモリブデートの酸化体と還元体の放電容量の差は,還元体の充電時にカリウムがデインタカレートされた分に一致していた。放電容量としては実用化されている正極材料と遜色がないので,今後,レート特性,サイクル特性の改善を図る予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
順調に試料調製と定電流充放電実験を進めている。新物質であるリチウムモリブデート,カリウムモリブデートそれぞれの酸化体と還元体について,組成を明らかにし,粉末X線回折(XRD)パターンのピークに回折指数を付するところまで完了した。現在,リートベルト法による結晶構造の精密化を実施しているところである。定電流充放電実験でも様々な重要な知見が得られている。酸化体の定電流充放電実験では,最初の充電ではファラデー電流がほとんど流れなかったが,その次の放電ではリチウムモリブデートが260 mAh/g,カリウムモリブデートが129 mAh/g程度の容量を示した。一方,還元体の場合は最初の充電容量がリチウムモリブデートで162 mAh/g,カリウムモリブデートで363 mAh/gであり,放電容量はリチウムモリブデートが174 mAh/g,カリウムモリブデートが182 mAh/gであった。酸化体が最初に充電されないのはMoが6価であり,これ以上酸化されないため,アルカリ金属イオンのデインタカレートが不可能だからである。還元することでMoが4価前後になり,Moの酸化を伴うアルカリ金属イオンのデインタカレートが可能になる。また,リチウムではなくカリウムを含むモリブデートの還元体から出発して充放電した場合でも,カリウムがデインタカレートされることによる充電容量が観察された。これは出発する電極材料がリチウム塩でなく,カリウム塩でもリチウムを可逆的にインタカレートできることを示しており,重要な知見である。カリウムモリブデートの酸化体と還元体で放電容量を比較すると,還元体の方が53 mAh/gほど大きかったが,これはK0.30MoO2.14のカリウムイオンがデインタカレートして,その位置にリチウムイオンがインタカレートされたからだと考えると一致する。
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Strategy for Future Research Activity |
ソフト化学的手法による材料合成経路を我々の研究室では開拓してきたが,過熱水蒸気を用いる方法は低温で準安定相が生成するという利点がある。合成経路を検討していく中で,混合原料を高振動粉砕機で粉砕するというメカノケミカル法も電極材料の調製に優位性をもつことを見出した。過熱水蒸気を用いる方法をメカノケミカル法と組み合わせることを検討している。 コバルト酸リチウムが実用化されて以来,新しい正極材料候補として第4周期遷移金属の複合酸化物が精力的に研究され,第5周期遷移金属の複合酸化物は注目されてこなかったが,容量には遜色がなく第4周期遷移金属にも探索を広げるべきと言える。これまでの報告から多種の遷移金属元素を含む複合酸化物が良好な充放電性能を示すことが知られており,できるだけ多種の元素を含む複合酸化物を調製することも目的としたい。その候補となる金属元素としてはニッケル,マンガン,バナジウム,コバルト,ニオブ,モリブデン,タングステンである。また,正極材料の探索に当たり,共同研究として,材料インフォマティクスの手法を用いることやルーチン的な実験について実験自動化ロボット等の開発を検討している。
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Causes of Carryover |
研究計画に基づいて予定通りに消耗品を購入したものの,一部の消耗品の実勢価格が安くなったため,8429円の残額を生じる結果となった。
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