2022 Fiscal Year Research-status Report
病原性細菌が嫌気的にヘムを開環分解して生存に必須の鉄を取り出す機構の解明
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20K05708
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
小崎 紳一 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (40280581)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 恒彦 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (50173159)
木股 洋子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (60255429)
永野 真吾 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (60286440)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヘム |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄は生物が生きていくために必要なエネルギーを生産するために不可欠な金属イオンである。そのため、生物は様々な鉄獲得機構を進化させている。病原性細菌もその例外ではない。こうした細菌の主たる鉄源は感染宿主の赤血球に含まれるヘモグロビン (Hb)である。通常、グラム陰性細菌は、宿主の血液を溶血した後Hbから遊離したヘム をヘモフォアHasAによって外膜受容体HasRにまで輸送し、次に、ヘムは外膜と内膜を通り抜けて細胞質で分解される。ヘム鉄は環状テトラピロールの中心に強く配位結合しているため、ヘム分解酵素で開環された後に遊離する。 私達はこれまで、Pseudomonas aeruginosa(グラム陰性好気性細菌 日和見感染の原因菌の一種で、皮膚、肺・気管支の炎症の原因細菌) Yersinia pseudotuberculosis(グラム陰性通性嫌気性細菌 胃腸炎の原因細菌) Eikenella corrodens(グラム陰性通性 嫌気性細菌 歯周病の原因細菌) Porphyromonas gingivalis(グラム陰性偏性嫌気性細菌歯周病の原因細菌) を研究材料にして 「ヘムの細菌内への輸送」や「ヘム を分解して鉄の抽出」を行うタンパク・酵素の機能解析を実施してきた。そして、細菌は生育環境に応じて実に多様な鉄獲得のための仕組みを構築していること を明らかにした。さらに、ヘムの輸送を阻害することで病原性細菌の生育を阻害できることも実証した。 しかし、偏性・通性嫌気性細菌が嫌気下で酸素非依存的にヘムを分解する機構については未解明である。そこで、嫌気的ヘム分解経路を解明し、その知見をもとにして阻害剤をデザイン・合成して細菌の生育抑制することが本研究の目的である。本研究を通して歯周病や胃腸炎など病原性細菌による感染症対策、健康的な生活の実現に寄与することを目標とする。 令和4年度は主として菌体内に蓄積した嫌気的ヘム分解物の同定に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の研究では、第一に、偏性・通性嫌気性細菌Yersinia pseudotuberculosisにおいて酸素非依存的にヘムを分解する役割を担っていると考えられる酵素の発現と精製に成功した。そして、この酵素が基質であるヘムとの結合能を持っているか、酸素非依存的なヘム分解活性を持っているか、などについて検証したが、この酵素は不安定で沈殿しやすく詳細な機能解析が困難であった。第二に、嫌気下では酸素分子の代わりにS-アデノシルメチオニン(SAM)由来のメチルラジカルを用いてヘムの開環反応が進行しているのではないかという仮説に基づいて、ヘムや類似するテトラピロールと化学的に生成したメチルラジカルとの反応を行い、生成物の同定に取り組んだ。 令和3年度の研究では、偏性・通性嫌気性細菌Eikenella corrodensにおいて酸素非依存的にヘムを分解する役割を担っていると考えられる酵素のクローニ ングに取り組み、発現・精製を行った。その結果、Yersinia pseudotuberculosisの酸素非依存的ヘム分解酵素より安定で、補因子である鉄硫黄クラスターも保持された形で酵素を得ることができた。この酵素によりメチルラジカルが関与したヘム分解物の単離・同定に取り組んだが、生成物が微量であり同定に至らなかった。また、酸素分子非依存的なメチルラジカルに起因するヘムの分解は酸素分子によって阻害されることがわかった。 そこで、令和4年度の研究では、メチルラジカル依存のヘム分解酵素を菌体内で大量発現させて培養し菌体内にヘム分解物(色素)を蓄積させる、あるいは、分解反応を嫌気ボックス内にて酸素分子非存在下で行うことで分解物を同定に充分量獲得することを試みた。本酵素の遺伝子を持つ菌体において特異的に蓄積していると考えられるヘム分解物(色素)が観察された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の実験・観察結果をもとに、現在、再現性、並びに、培養・反応条件の最適化を行っている。Eikenella corrodensとYersinia pseudotuberculosisの酸素非依存的でS-アデノシルメチオニン(SAM)依存的にヘムを分解する役割を担っていると考えられる酵素の特徴化を完了する予定である。また、同時に研究している別のSAM依存メチル化酵素とも機能・構造を比較しながら考察を行う計画である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、令和2年度に予定していた、嫌気チャンバーの導入がおくれたため、それ以降の研究経費の使用に変更が生じた。令和5年度は嫌気チャンバー内で行った反応で得られたヘム分解物の分離・同定を行う。その際に必要な分析カラム、溶媒などの消耗品に研究費を使用する予定としている。
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