2021 Fiscal Year Research-status Report
高機能抗体薬物複合体創成を目指した多量体型抗体フラグメントの分子基盤
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20K05721
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Research Institution | Tokyo University of Science, Yamaguchi |
Principal Investigator |
田所 高志 山陽小野田市立山口東京理科大学, 薬学部, 講師 (10762396)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 抗体 / 蛋白質工学 / 抗がん剤 / 相互作用解析 / 合理的分子設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請では、従来の抗体医薬品よりも標的選択性と親和性に優れた高機能な抗体フラグメントを創成することを目指している。 R3年度には、前年度に乳がん治療抗体であるトラスツズマブをモデルとして、scFvのC末端に多量体化ペプチドを連結し作製した多量体化scFvを基に、既存の抗原との複合体構造情報に基づき、抗原結合能を低下させる変異を導入したscFvを用いて、変異導入多量体型抗体フラグメントを調製した。表面プラズモン共鳴法による相互作用解析の結果、scFv一価あたり最大で二桁程度の抗原結合能が低下した変異体を多量体化すると、解離定数が2桁程度改善していることを見出した。また、多量体型抗体フラグメントについて収量の改善を目的として哺乳細胞を用いた発現系を構築した。さらに、scFvと多量体化ペプチドをつなぐリンカー配列について複数の候補配列を導入した発現系を構築した。これらを組換えタンパク質として調製し、相互作用解析を行ったところ、リンカー配列により、多量体化の効率や、抗原に対する結合能に違いがみられる初期データを得ている。また、最終年度に向けて、抗原発現細胞を用いた結合実験を実施し、変異を導入した多量体型抗体フラグメントが抗原発現細胞に結合していることを示唆する初期データを得ている。今後は抗原発現量の異なる細胞についても検討し。物理化学的相互作用解析の結果と細胞に対する結合との相関について知見が得られるように研究を進める予定である。 さらに、抗体薬物複合体への応用に向けてトラスツズマブのscFvに対する薬物コンジュゲート体の試作を行い、抗原発現細胞に対する毒性試験を試みた。その結果、コンジュゲートに用いた化合物とそん色ない程度の細胞毒性を示す初期データを得ることができた。今後、多量体型抗体フラグメントに適用するための基礎データを揃えていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に調製系を確立したトラスツズマブの抗原結合低下変異体を用いて、C末端に多量体化ペプチドを融合した多量体化抗体断片を調製できている。表面プラズモン共鳴法による結合実験から、多量体化抗体断片が、その単量体に比べて見かけの解離定数が小さく、すなわち結合能が向上するという結果を得ている。詳細に解析をしてみると、その要因は解離速度定数によるものであることが明らかにできている。これは期待どおりにavidity効果による抗原結合能の改善ができていると考えられる。一方、大腸菌発現系を用いた多量体化抗体断片の調製法では、単量体に比べて収量が低下する傾向にあったため、哺乳細胞を用いた発現系を構築した。さらに、scFvと多量体化ペプチドをつなぐリンカー配列の検討に着手し、複数のリンカー配列について発現系の構築および結合実験の初期データを得ている。また、細胞を用いた結合実験にも着手しており、抗原発現細胞に対する結合を示唆する初期データを得ている。以上のように、概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
トラスツズマブをモデルとして、設計どおりに変異を導入した多量体型抗体フラグメントを作製し、表面プラズモン共鳴法による相互作用実験により、多量体化によるavidity効果での抗原結合能の改善を示唆する結果を得ている。今後さらに詳細に結合実験を進める一方、抗原発現量の異なる細胞を用いて抗原集積性を調べることでその挙動と物理化学的解析結果との比較を行い、分子の最適化を検討する予定である。さらには、抗体薬物複合体への応用に向けて薬物コンジュゲート体の試作を引き続き進めることを計画している。またトラスツズ マブ以外の既存抗体医薬品について同様に多量体化について検討し、多量体型抗体フラグメントの汎用性を検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で、予定していた学会等がオンライン開催になったため旅費がかからなかった。また、1月に異動があり、手続き再開後年度末までに決済ができない物品がいくつかあったためこれらの購入を次年度に当てるよう予算を繰り越した。
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