2021 Fiscal Year Research-status Report
網羅的な細胞内1分子イメージングによるGPCRome解析
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20K05760
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
柳川 正隆 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70609792)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | GPCR / 1分子イメージング / 1分子薬理学 / ハイコンテント解析 / 実験自動化 / 拡散機能相関 |
Outline of Annual Research Achievements |
GPCRは薬の主要な標的分子である。本研究では、モデルGPCRにおける分子間相互作用計測と、網羅的なGPCRの1分子イメージングを行い、細胞膜中のGPCRの拡散動態を規定する分子基盤を明らかにすることを目的とする。これにより、任意のGPCRに対する複数の薬効を1分子イメージングで評価できる基盤を構築し、1細胞におけるGPCRの拡散動態変化から化合物評価を行うGPCRome解析を実現する。 2021年度は、AT1Rとシグナル伝達分子(Gq・GRK2/5)の相互作用を2色同時1分子イメージングにより解析した。その結果、刺激前の細胞膜においてAT1R・Gq・GRK5が同じ膜ドメインに集積しており、Gqの活性化の有無に伴いGRK5の膜ドメイン選択性が逆方向に変化することを突き止めた。一方、AT1Rは活性化するとGqの活性化の有無に関わらず、膜ドメインへの集積がより促進される。このGq活性化に伴うAT1R・GRKの膜ドメインへの親和性の違いに依存して、AT1Rをリン酸化するGRKのサブタイプの選択性が厳密に制御されることが分かった(Kawakami, Yanagawa et al. Nature Commun, 2022)。 また、2020年度に検討したモデルHaloTag融合GPCRの染色手法を用いて96ウェルプレートによる自動計測を開始した。しかしながら、GPCR間の発現量のばらつきやHaloTagリガンドの非特異結合の影響により、多くのGPCRでは良好な撮影ができなかった。2021年度は、蛍光ペプチドを用いた新規蛍光標識手法を検討し、従来法と比較して良好な自動計測できる条件を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、研究計画に基づきアンジオテンシン受容体(AT1R)をモデルとしたGPCR・シグナル伝達分子間相互作用の1分子イメージングを中心に実施し、GqによるGPCR・GRK間相互作用のサブタイプ選択機構を新たに発見した(Kawakami, Yanagawa et al. Nature Commun, 2022)。 2020年度に寄稿した、1分子イメージング・解析のワークフローに関するInvited Book Chapterが正式に出版・公開された(Yanagawa and Sako, Methods Mol Biol 2021)。本ワークフローを用いた共同研究を実施し、3報の原著論文が出版された(Abe et al. Cell Rep. 2021, Kuwashima et al. IJMS 2021, Akiyama et al. Angew. Chem. Int. 2021)。さらに、上記の研究成果を含む内容について、国内会議で4件の招待講演を行った。したがって、本研究は当初予定していたよりも順調に成果発表が進んでいると考えられる。 一方、網羅的なGPCRの1分子計測については当初計画よりもやや遅れている。2020年度にモデル受容体を用いて確立した細胞調製手法では、様々なGPCRを96ウェルプレートに一過性発現した場合には十分なスループットで自動計測を実施することが困難であることが分かった。そこで、新規の蛍光標識手法を検討し、より非特異染色が少ない条件でGPCRを1分子計測可能な密度で蛍光標識できる手法を確立した。新規蛍光標識手法の確立は、本研究分野のブレークスルーにつながるものであり、次年度に論文として報告していきたい。以上を総合して、本研究の進捗はおおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、2021年度に引き続きAT1Rをモデルとしてアレスチン・Raf・クラスリンとの多色同時1分子イメージングを行う。これにより2021年度に報告したAT1R・アレスチン複合体の下流で生じるERK応答・エンドサイトーシスの経路選択がどのように実現しているのかを明らかにしたい。必要に応じて、他のGPCRでも一般性の検証を行う。 さらに、2021年度に確立した新規蛍光標識手法を用いて96ウェルプレートで、約300種類のGPCRの1分子動態計測を開始する。まずは、314種のGPCRについて蛍光標識タグをN末端に標識したプラスミドDNAの作製を行い、構築できた順に1分子計測を実施していきたい。 また、GPCRの1分子動態変化と細胞応答の連関を解析する上で、ハイスループットに細胞応答を計測する手法の開発を行う。2021年度に、ERK/PKA/PKC/AKTなどの細胞応答を解析する単色発光プローブの開発を行い、順調な予備実験結果が得られてきた。プレートリーダーを用いて上記のシグナル伝達経路の生細胞内キネティクス計測が可能な単色発光プローブは現状存在しないため、薬理学・創薬において需要のあるプローブ開発になると期待される。1分子動態を定量したGPCRから順に、新規発光プローブを用いた細胞応答計測を実施する。 以上の実験結果を総合し、リガンド刺激依存的なGPCRの1分子動態変化と細胞応答の相関を比較する。これによりGPCRの1分子動態変化から様々なシグナル伝達経路に関する薬効を推定する手法の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
当初計画から遅れが生じている「網羅的なGPCRの1分子イメージング」の項目に関連した試薬・消耗品の購入を2022年度に実施するため。
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Research Products
(14 results)