2020 Fiscal Year Research-status Report
生育表現型の回復した光合成因子欠損株のゲノム変異とその光合成機構の解析
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20K05769
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
和田 慎也 神戸大学, 農学研究科, 助教 (80637942)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光合成 / 電子伝達 / シロイヌナズナ / PGR5 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では生育表現型の異なる2つのPGR5欠損シロイヌナズナ株(pgr5-1, Hope1)の生育差を遺伝学的に解明し、基礎科学としての植物の光ストレス耐性に関わる知見を得ること、またその情報を光合成能力の向上へと応用することを目指したものである。 本年度は、材料であるpgr5-1とHope1、2つのPGR5欠損シロイヌナズナの生育表現型の原因変異の解析を行った。両変異体を交配すると、そのF2後代における生育表現型は、見た目が野生型と変わらないHope1型と葉の黄化が見られるpgr5-1型になるものが約3:1にメンデルの分離をして出現した。そのため、両者の生育表現型はPGR5変異以外の1つの遺伝的要因に起因することが考えられた。そこで両変異株の全ゲノム配列の解析を行い、データベース上のシロイヌナズナのレファレンスゲノム、および2つの欠損体の解析配列を比較し、どちらかの欠損株のみに存在する変異を抽出し、推定される目的遺伝子の条件を考慮して変異の絞り込みを行った結果、10変異にまで変異を選抜した。該当する10遺伝子のT-DNA挿入変異体を入手し、生育表現型を観察したところ、その中の1系統において、変異が確認されたpgr5-1株同様に葉が黄化する変異体が確認された。そこで、該当する遺伝子(At2g17920)のcDNAをpgr5-1株へ導入したところ、葉の黄化など生育表現型が一部回復した。これらの結果より、2つのPGR5欠損変異株pgr5-1とHope1の生育表現型の違いは、pgr5-1株に存在したAt2g17920遺伝子上の変異に起因していたと結論づけられた。また、今回同定した本変異をPSI photoprotection1 (ptp1)と命名した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、計画当初予定していた変異株のゲノム解析、変異の絞り込み、該当変異体の解析、候補遺伝子を再導入した形質転換体の作成までの実験を行うことができた。社会的な状況により国外からの実験材料の取り寄せ等に時間を要することはあったが、おおむね実験を推進することができた。また、これらの実験の結果より、本研究の要であった同一遺伝子の変異株でありながら生育差が生じる2つの変異体の遺伝的要因を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では当初、Hope1株側にPGR5欠損変異による影響を補うような変異が存在することが予想されていたが、本年度の解析の結果、pgr5-1株に生育の悪化を助長するような第2変異(ptp1)が見出された。pgr5-1株はこれまでPGR5欠損変異体として様々な光合成研究において使用されてきていたが、今回ptp1変異が見出されたことで、PGR5単独の光合成への影響も再検証される必要がでてきた。そこで今後の推進方策としては、両株の詳細な光合成解析を行い、PGR5の光合成因子としての再評価とともに、ptp1変異の影響、特に光化学系I(PSI)を中心とした解析を行う。具体的には、強光環境や変動光環境等で栽培を行い、光ストレス耐性を評価する。同時に、光合成能力の差を生理生化学的手法により解析し、PSIを中心とした電子の流れを評価するとともに、構成タンパク質の量的解析から光ストレスによる損傷を評価する。これらの解析より、これまで考えられてきたPGR5依存的なPSI循環的電子伝達の光合成における役割、またその存在そのものについて考察する。
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Research Products
(3 results)