2020 Fiscal Year Research-status Report
石灰質アルカリ土壌における稲作の実現を目指したイネのマンガン欠乏耐性分子機構解明
Project/Area Number |
20K05775
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
上野 大勢 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 准教授 (90581299)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | イネ / トランスポーター / マンガン欠乏 / カルシウム / アルカリ土壌 / 石灰質土壌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は食料増産のために,石灰質アルカリ土壌における稲作の実現を目指し,イネのマンガン欠乏耐性分子機構を解明することを目的とする。単純なマンガンの不溶化による欠乏ではなく,高濃度カルシウムによるマンガン輸送の拮抗的阻害という石灰質アルカリ土壌で発生する本質的な問題の解決に向け,マンガン/カルシウム共輸送体に着目した研究を行う。本年度は変異株のスクリーニングによって得られたマンガン欠乏感受性株の解析を行った。 マンガン欠乏感受性に関わると考えられる遺伝子はP2A-Type ATPaseの一つであるEndoplasmic reticulum Ca2+ ATPase3 (ECA3)をコードする。植物材料として,Tainung 67系統のT-DNA挿入によるeca3破壊株,および日本晴系統よりCRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いて作成したeca3破壊株を用いた。水耕試験により異なるマンガン濃度(0.01, 0.02, 0.5 (Control),10 μM)で栽培した生育レベル,クロロフィル濃度,マンガンおよび各種元素濃度を解析した。さらにDual-PAMを用いて,新葉における光化学系Ⅱ活性とP700酸化に対するECA3欠損の影響等を調べた。 水耕栽培において,0.5 μM以上のマンガン濃度で栽培した場合,野生株とeca3欠損株との間に生育差は見られなかった。しかし,0.02 μM以下で栽培した場合にはeca3欠損株で展開しつつある新しい葉身が委縮し,野生株に対し生育レベルとクロロフィル濃度が低下した。一方,興味深いことに,地上部と根どちらにおいても,マンガンおよび他の必須元素濃度に変化は見られなかった。このことは,eca3欠損株におけるマンガン欠乏感受性が,吸収や転流の効率の違いではなく,細胞内におけるマンガンの適切な分配に破綻をきたすことに起因することを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定より研究に遅れが生じている理由は、まず外的要因としてコロナ禍の影響により実験の実施が断続的に制限されたことが大きい。 実験上の予期しない事態としては、準備していた二つの独立した変異株間で大きく異なるフェノタイプが表れたために、新たな変異株の取得と必要量の種子の確保に時間を要した。また、細胞内局在性を調べるために、GFP融合遺伝子の一過性発現解析を行う予定であったが、大腸菌に融合遺伝子の強い毒性が表れ、増殖株由来のコンストラクトでは100%の確率で塩基置換を起こしてしまった。細胞内局在性は同時進行でウエスタンブロッティングでも解析してきたが、ショ糖密度勾配遠心で分画した連続画分で二つピークが表れ、各種オルガネラのマーカータンパク質との対応が取れなかった。このようなことから、細胞内局在性の解析にも多くの時間を要し、研究に遅れが生じる原因となっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在解析中のECA3の細胞内局在性について、まずGFP融合遺伝子の単離のため毒性が発現しないよう低温で培養するとともに、増殖速度が高く毒性遺伝子の発現を抑制できる大腸菌株を用いて検討する。ウエスタンブロッティングで見られた二つのピークのうち、一方はERマーカーとの一致率が高いため、マグネシウム存在下で分画することによりERを高分子側へシフトさせて再度検討する。 現在ECA3のオルソログであるマンガン/カルシウム共輸送体ECA1,ECA2についても解析中である。これまでの解析により、これらの変異株はeca3とは異なりマンガン過不足による生育阻害を示さないことが分かっている。この要因として、我々が同定したイネの液胞膜型マンガン輸送体MTP8.1が、細胞質内のマンガン濃度を厳密に調節するため、他のオルガネラの局在する輸送体の遺伝子欠損株の表現型が見えにくくなっているものと考えられる。そこで、交配によりeca1またはeca2とmtp8.1との二重破壊株を用いて解析を行う予定である。現在までに、二重破壊株種子は取得済みである。
|
Causes of Carryover |
2020年度はcDNAまたはTOS17挿入株のスクリーニングにより、明瞭なフェノタイプを示す変異株が得られたため、先にその変異株の解析に注力する判断に至った。そのため、前年度に実施する予定であったトランスクリプトーム解析は本年度実施し予算を執行する。
|
Research Products
(2 results)