2021 Fiscal Year Research-status Report
石灰質アルカリ土壌における稲作の実現を目指したイネのマンガン欠乏耐性分子機構解明
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20K05775
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
上野 大勢 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 准教授 (90581299)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イネ / マンガン / カルシウム / トランスポーター / 石灰質土壌 / アルカリ土壌 / 輸送体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は高カルシウム(Ca)/低マンガン(Mn)環境の石灰質土壌における稲作の実現を目指し,イネのMn欠乏耐性分子機構を解明することを目的とする。本年度は①Mn/Ca共輸送体ファミリーP2A-Type ATPaseに属するEndoplasmic reticulum Ca2+ ATPase1~3 (ECA1~3),ならびに②液胞膜型Mn/H+対行輸送体Metal tolerance protein 8.1 (MTP8.1)およびMTP8.2の役割を解析した。 ECA3のCa恒常性おける役割を調べるため,水耕でCa欠乏処理(0.18 (コントロール), 0.036, 0.018 mM)を14日間,またはCa過剰処理(0.18, 1.8, 3.6 mM)を21日間行った。その結果,Ca欠乏によりeca3と野生株に生育の違いは現れなかったのに対し,Ca過剰ではeca3の生育が約40%低下した。ECA3の組織局在性を抗体染色により解析したところ,同輸送体は根,葉鞘,葉身に対し節で多く,維管束で蓄積が見られた。一方,ECA1とECA2の解析は下記「現在までの進捗状況」で詳述する理由で機能解明に至っていない。 石灰質土壌では鉄の溶解度も大きく低下するが,シロイヌナズナのオルソログAtMTP8は鉄欠乏条件で鉄とMn両方の恒常性に関与することが知られる。野生株とmtp8.1mtp8.2二重破壊株を鉄を除いた培養液で水耕栽培したところ,mtp8.1mtp8.2と野生株の地上部のMn濃度は鉄十分条件と比べ同様に2.5倍高くなった。一方,mtp8.1mtp8.2においてのみ下位葉にMn過剰症によるネクロシスが表れた。このことは,MTP8.1およびMTP8.2が,鉄欠乏に伴い過剰に吸収されるMnを液胞に排出することにより無毒化する機能を有することを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定より研究に遅れが生じている理由は、引き続き外的要因としてコロナ禍の影響により実験の実施が断続的に制限されたことが大きい。 ECA1およびECA2の機能解析のため、各遺伝子の変異株を取得し検討したが,少なくとも設定した実験条件では野生株との差異が見られなかった。これには,一因としてECA1とECA2が機能的ホモログである可能性が考えられた。また,イネの細胞質のMn濃度はMTP8.1により厳密に維持されているため,フェノタイプを解析するためには,MTP8.1との二重破壊株を作成する必要がある可能性も考えられた。そのため,eca1eca2二重破壊株,およびeca1mtp8.1またはeca2mtp8.1二重破壊株の作成を試みた。これらのうち,mtp8.1との二重破壊株は作成できたものの,両二重破壊株はMn欠乏またはMn過剰に対し,野生株とことなるフェノタイプを示さなかった。このことはECA1とECA2が機能的ホモログであり,mtp8.1がバックグラウンドになっても,どちらか片方のみの変異では,もう片方がその機能を相補してしまうことを示唆している。一方,eca1eca2二重破壊株は致死性で,どちらか一方がヘテロの株のみ作成することができた。しかし,この破壊株は非ストレス条件でも生育が悪く稔りも非常に少ないため,現在必要量の種子の確保に努めている。 ECA3の細胞内局在性の解析のため,GFP融合遺伝子の作成も試みてきた。前年度までにECA3:GFP融合遺伝子が大腸菌に対し毒性を示すことが問題となっており,これに対する対策を講じてきたが現在までに問題の解決には至っていない。 MTP8.1とMTP8.2がマンガンに加え鉄も輸送する可能性を検討するために,放射光蛍光X線イメージングにより各金属の胚における分布を検討したが,再現性のある結論には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
MTP8.1との二重破壊株が明確なフェノタイプを示さなかったことから,ECA1とECA2が機能重複している可能性が高まった。以降はeca1ホモeca2ヘテロ株,またはeca1ヘテロeca2ホモ株の必要な種子量を確保し実験を展開していく。 大腸菌に毒性が表れ,コンストラクトが作成できない問題は解決する見込みがほぼなくなった。今後は大腸菌クローニングに代えてin vitro長鎖環状DNA構築ツール「OriCiro Cell-Free Cloning System」を用い,ECA3:GFP融合遺伝子の作成を試み検討する。 MTP8.1またはMTP8.2が鉄欠乏時にMnの恒常性に寄与する可能性が示唆された。イネ科植物のMTP8はMnへの高い特異性を持つと考えられているが,イネのMTP8.1またはMTP8.2が鉄の輸送に関与する可能性についても再度検討する。
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Causes of Carryover |
前述のとおり実験の進捗に遅れが生じており,使用額の減少に繋がった。本年度は既に外注済みのトランスクリプトーム委託解析費を間もなく執行する予定である。これ以外の予算についても計画的に執行したい。
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Research Products
(1 results)