2021 Fiscal Year Research-status Report
慢性的DNA損傷ストレス耐性におけるリボソームの役割
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20K05790
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
赤沼 元気 学習院大学, 理学部, 助教 (30580063)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リボソームタンパク質 / サプレッサー / 染色体異数化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に、染色体異数化によるリボソームタンパク質遺伝子欠損株の増殖速度回復と、DNA損傷ストレス耐性低下に関する解析を行った。 リボソームタンパク質L42B欠損株以外にも、6種のリボソームタンパク質欠損株について、染色体異数化による増殖速度回復が見られるかを検討し、全てのサプレッサー変異株でパラログ遺伝子がコードされている染色体の倍加を確認した。これらの株では、DNA損傷剤や複製阻害剤への感受性増加が認められたが、感受性増加の程度は株によって大きく異なっており、増加した染色体とパラログ遺伝子の種類によってDNA損傷ストレス耐性への影響は変化すると考えられた。 出芽酵母は通常1倍体として増殖するが、2倍体化することで環境に適応する例が知られている。L42B欠損株でも2倍体化によりパラログ遺伝子が2コピーとなるため、増殖速度の回復が予想されるが、L42B欠損株から細胞増殖速度が回復した2倍体は得られていない。そこで、2倍体細胞のL42BとL42Aの遺伝子コピー数を制限した株を作製して調査した。L42A遺伝子のみ2コピー保持する2倍体株の増殖速度は1倍体のL42B欠損株とほとんど変わらず、80Sやpolysomeの含有量の増加も認められなかった。恐らく2コピーのL42A遺伝子では2倍体細胞に十分な量のリボソームタンパク質を供給できないことが原因と考えられる。 L42B欠損株のサプレッサー変異株ではDNA損傷ストレス耐性が低下するが、この表現型を抑圧する変異株の単離を試みた。サプレッサー変異株からMMS耐性株を選択し、そこから異数性が解消された株を除いた。これらの株のゲノム塩基配列を次世代シーケンサーで解析したところ、多くの変異がリボソーム合成や翻訳に関わる遺伝子から検出された。今回の結果は細胞の翻訳活性低下がタンパク質の不均衡解消に一定の効果があることを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1-2年目に実施を予定していた以下の3つの課題については検証を終えている。さらに、染色体異数化によるリボソームタンパク質遺伝子欠損株の増殖速度回復や、DNA損傷ストレス耐性低下などの現象も見出しており、おおむね順調であると言える。 1.DNA損傷ストレスがリボソームの複合体形成状態に与える影響; 40, 60Sサブユニットと80S、ポリソームを分離し、同時に観察可能な条件を設定した。その条件においてMMS存在下でのリボソーム形成状態を観察し、非添加時と比較してポリソームフラクションの低下と80Sフラクションの増加を確認した。 2.DNA損傷ストレスによるリボソームタンパク質の構成変化解明; MMS添加・未添加の条件で培養した細胞から調製した80Sとポリソームフラクションに含まれるタンパク質を二次元電気泳動で比較したが、泳動パターンに大きな差は認められなかった。しかしいくつかのリボソームタンパク質において、DNA損傷ストレス条件下では、パラログタンパク質と一部入れ替わったリボソームの存在が示唆された。 3.遺伝的スクリーニングによるDNA損傷ストレス耐性因子の同定; 116種のリボソームタンパク質遺伝子欠損株についてMMS感受性を調査するなかで、L42B欠損株の増殖速度が回復したサプレッサー変異株ではDNA損傷ストレス耐性が低下していること、その原因がL42A遺伝子をコードする第14番染色体の異数化であることを突き止めた。さらに、S9B, S24A, L14A, L16B, L42B, L43Aのそれぞれの欠損株についてもサプレッサー変異株を単離し、DNA損傷ストレス耐性の低下を観察するとともに、パラログ遺伝子がコードされている染色体の重複を確認した。さらに、L42B欠損株のサプレッサーからMMS耐性株を単離し、ゲノムシークエンスによりDNAストレス耐性を回復させる変異を探索した
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究により、L42A以外のリボソームタンパク質欠損に起因する増殖遅延に関しても、欠損したタンパク質のパラログをコードする遺伝子を含む染色体の異数化によって抑制されることが明らかになった。そこで令和4年度は、出芽酵母が有する16本の染色体それぞれに対してL42Aをコードする遺伝子を導入し、L42Bをコードする遺伝子を欠損させた場合に、L42A遺伝子がコードされている染色体の異数化による増殖遅延の抑制効果が観察できるのかを検証する。また、その際のDNA損傷ストレス耐性を観察することで、異数化染色体による影響の違いを理解する。さらに、染色体異数化によるDNA損傷ストレス耐性低下を抑制する変異がリボソーム合成関連遺伝子に多数同定された本年度の結果を受け、異数化細胞に同定された変異を単独で導入する実験を予定している。これにより、抑制効果の高い変異を決定するとともに、リボソーム合成量の低下がどのようにして異数化細胞のDNA損傷ストレス耐性を回復しているのかを解明する。
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Causes of Carryover |
次世代ゲノムシークエンス解析に係る費用を共同研究によって補えたことや、コロナ禍により海外で開催される学会参加に必要な渡航費用が不要になったことなどから次年度使用額が生じた。次年度は遺伝子への変異導入や増殖速度への影響を観察する機会が増えると予想されるため、変異導入に必要な合成オリゴや試薬、増殖速度を簡便に測定できる実験機器の購入に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)