2020 Fiscal Year Research-status Report
機能未知酵素ホモログによるアシルCoA代謝調節機構の解明
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20K05804
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 彩子 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教 (90633686)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 代謝調節 / アシルCoA / 短鎖脂肪酸 / Thermus thermophilus / 機能未知酵素ホモログ |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質翻訳後修飾と制御タンパク質との相互作用により複雑に活性調節されることが示唆されているCoA transferase (CoAT)について、その制御機構の詳細を明らかにするため結晶構造解析に取り組んだ。これまで、CoAT及び制御タンパク質の結晶構造は決定できていたため、複合体の構造解析に主に取り組んだ。タンパク質の発現宿主を大腸菌から、CoATの由来であるThermus thermophilusに変更するなどの工夫を行ったが、これまでに複合体の結晶は得られていない。その一方で、NAD+やNADHを結合することが分かっている制御タンパク質はアポ型に加え、NAD+結合型、NADH結合型の結晶構造を決定し、NAD(H)の結合に伴い構造変化が生じることが示唆された。 また、CoATの制御タンパク質がNAD+/NADH比のセンサーとしての働きを持つことが示唆されていることから、CoAT以外のパートナーの探索も進めた。 T. thermophilusに4つ存在するアシルCoA合成酵素(ACS)ホモログについては、主にACS活性を持たないホモログ(ACS2)に着目して研究を進めた。ACS2はACSドメインに加えてDNA結合モチーフを持つことから、自身や他のACSホモログの転写調節に関わることが示唆されていたため、本遺伝子の破壊株や相補株を用いたqRT-PCRによるacs遺伝子の発現レベルの解析を行った。その結果、ACS2が酵素活性をもつACSホモログの培地条件依存的な転写誘導に関与することが明らかとなった。酵素活性を持たないACSが直接的にプロモータ領域に結合するかどうかの検討を進めている。さらに、ACS2の結晶化に成功し、ACS2のACSドメインの反応中間体との複合体の結晶構造を決定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CoATと制御タンパク質との複合体の結晶構造は得られていないが、制御タンパク質がNAD+やNADHの結合に伴い構造変化することが示唆された。NAD+/NADH比のセンサーとして働くと考えられる制御タンパク質がCoAT以外の代謝酵素などと相互作用して制御に関わることを予想したが、これまでの所そのようなタンパク質は見いだせていない。異なる培地条件などを試す必要があると考えている。 ACSに関しては、酵素活性を持たないACS2が他のACSホモログの転写制御に関わることを明らかにし、ACSとしての機能は持たないものの、転写制御因子として働くことが示唆された。また、ACS2のACSドメインのみの結晶構造を決定できた。ACS2はACS反応を触媒しないにもかかわらず、結晶構造には予想に反して反応中間体が結合していた。このことから、ACS2のACSドメインへの低分子の結合が、転写制御因子としての機能を調節する可能性が示唆され、ACS2の機能解明に向けて手掛かりが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
CoATと制御タンパク質との複合体の結晶構造解析については、様々な条件での結晶化を試みてきたがその成功には至っていない。引き続き結晶化スクリーニングを試みるが、ドッキングシミュレーションと変異体解析を組み合わせて行うことで、複合体構造の予測及びCoATの制御タンパク質との相互作用と翻訳後修飾による活性制御機構の解明を目指していく。 また、CoATの制御機構や制御タンパク質の細胞内での役割を明らかにするため、制御タンパク質と相互作用するCoAT以外のタンパク質の探索や代謝物の分析等も行っていく予定である。 ACSに関しては、転写制御に関わることが示唆されたACS2が直接他のACSのプロモータ領域に結合するのか、他の転写因子がこの制御にかかわるのかなどの詳細な解析を進める。ACS2の転写制御因子ドメインはエフェクター結合ドメインとDNA結合ドメインから構成され、さらにはACS2のACSドメインにも反応中間体が結合し得ることが結晶構造から明らかになっている。ACS2がどのようなエフェクターをどこに結合して、ACSの生育環境に応じた転写調節を担うのかについても、変異体解析等を通じて明らかにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初、トランスクリプトーム解析やメタボローム解析を用いて、DNA結合モチーフを含むACSホモログの転写制御下にある遺伝子の網羅的な同定や、CoATの活性制御によって影響を受ける代謝経路の同定を行う予定であった。しかしながら、ACSに関しては、DNA結合モチーフを持つACSが他のACSホモログの転写調節に関わるかどうかに着目して解析を行ったこと、CoATの活性制御機構に関してはこれまでにNAD+以外の代謝産物がCoAT活性に影響しないかなどの検討を行ったことから、当初予定していた網羅的解析を行わず、次年度使用額が生じた。DNA結合モチーフを持つACSホモログの転写への関与が示唆されたため、次年度以降のトランスクリプトーム解析等へ使用したいと考えている。
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Research Products
(4 results)