2021 Fiscal Year Research-status Report
機能性乳酸菌を作出するための新規ゲノム改変技術の確立
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20K05818
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
鹿志毛 信広 福岡大学, 薬学部, 教授 (80185751)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 朝光 福岡大学, 薬学部, 准教授 (90369025)
山本 雅達 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (40404537)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 乳酸菌 / ゲノム組込型ベクター / EPA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では選択圧の無い環境下においても遺伝的形質を安定に保持し、なおかつ危険な薬剤耐性菌を生じる可能性のある薬剤耐性遺伝子に依存しない安定かつ安全な乳酸菌の遺伝子改変技術を確立することを目的として、ゲノム組み込み型宿主―ベクターの開発と組換えによってゲノムに配座した薬剤耐性遺伝子を除去することが出来るin vivo excisionシステムの構築を行なう。 申請時においてL.caseiに溶原化するPL-2ファージintegrase遺伝子とアタッチメント サイト(attP)からなる部位特異的組換え領域を用いて大腸菌ではプラスミド型、乳酸菌でゲム組み込み型として機能するシャトルベクターpAE0を構築し、その宿主としてPL-2ファージ溶原株であるL.caseiからPL-2ファージを脱落させたキュアリング株(C5株)を単離している。pAE0にEPA合成遺伝子を挿入してC5株を形質転換したところ、得られたC5EPA株は選択圧のない条件下、70世代の培養後においてもEPA合成遺伝子を保持しており、HPLCによりEPAの産生が確認されている。 本年度はゲノム組み込み型で乳酸菌ゲノムに外来遺伝子と同時に配座するベクター由来の大腸菌の複製ユニット(Ori)とエリスロマイシン耐性遺伝子(EmR)を含めた不要領域(Ori-EmR)を除くin vivo excisionシステムを構築するために以下の実験を行った。 1)D-リボース誘導性に溶菌酵素を発現するベクターpGlcHLys(ATG)の作動条件の適正化 2)NaCl誘導性に組み換え酵素FLPを発現するin vivo excisionプラスミドpHILcFLPの作動条件の適正化 3)pGlcHLys(ATG)をゲノムに保持するpGlcHLys(ATG)211株にpHILcFLPを導入した211cFLP株の溶菌酵素遺伝子部分の切り出し効率の最適化
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
in vivo excisionシステムを構築のための3つの実験を行った。 1)D-リボース誘導性に溶菌酵素を発現するベクターpGlcHLys(ATG)の作動条件の適正化:pGlcHLys(ATG)は、D-リボースで発現が亢進するL.caseiに由来するGlcNacaseのプロモーター領域とL.caseiの溶菌性ファージであるPL-1のHolinおよびLysin溶菌酵素遺伝子を有し、その上流と下流に酵母に由来する組換え領域(FRT)を有する。pGlcHLys(ATG)によって形質転換された乳酸菌はD-グルコース培地では生育するが、D-リボース培地では溶菌酵素により増殖が抑制されることを期待する。現在、pGlcHLys(ATG)をゲノム上に保持する株(pGlcHLys(ATG)211)の増殖アッセイ、その培養上清菌や体内祖抽出物を用いた溶菌試験では、リボース含有培地で培養した場合、わずかな溶菌活性と寒天培地における増殖抑制を確認した。 2)NaCl誘導性に組み換え酵素FLPを発現するin vivo excisionプラスミドpHILcFLPの作動条件の適正化:NaCl感受性に発現が亢進するOpAA遺伝子のプロモーター下流にFLP遺伝子を連結し、乳酸菌内で複製可能なプラスミドpHILcFLPを作製した。pGlcHLys(ATG)211株にpHILcFLP導入した株(211cFLP)についてNaCl(300mM)の添加によってRNAレベルでFLPの発現が確認された。 3) pGlcHLys(ATG)をゲノムに保持するpGlcHLys(ATG)211株にpHILcFLPを導入した211cFLP株の溶菌酵素遺伝子部分の切り出し効率の最適化:211cFLP株をNaClで処理し、FRTに挟まれる溶菌酵素遺伝子とEmR部分の除去を確認したが、FRT部分で組み換えを起こした株は得られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
実験3)において、211cFLP株を用いて外来遺伝子(HolinおよびLysin溶菌酵素遺伝子とEmR)が乳酸菌ゲノムに配座した後にNaCl誘導性にFLPが発現し、その基質であるゲノム上のFRT配列によって組み替えが起こり、その領域に挟まれるOri-EmRが除去されることを確認できなかった。このことから、pHILcFLPを導入した211cFLP株を用いてFLPの発タンパク質タンパク質レベルで確認し、その誘導条件の最適化などを引き続き検討する。 pGlcHLys(ATG)211の溶菌活性は寒天プレート培地での増殖抑制は確認できているが、液体培地条件下の増殖抑制は軽微であるため、溶菌活性を上昇させる条件検討を行う必要がある。 C5EPA株のゲノム解析と産生されたEPAの質量分析を試みたが、EPAは検出されなかったことから、菌体祖抽出物の調製やそれに含まれるEPAのメチル化条件などを検討する。 疫病カビ(Saprolegnia diclina)のEPAの産生はC18:1のアラキドン酸からC20:5のEPAと変換されること、その過程でデルタ17-Desaturaseの活性が律速段階であることが報告されている。我々が作製したC5EPA株によるEPAの産生は野生型L.caseiのC18:1のアラキドン酸に対してピークが減少していることから、C5EPA株においてもEPAの産生にC18:1のアラキドン酸が利用されている可能性がある。今後、L.caseにおけるデルタ17-DesaturaseのcDNAの発現ベクターを構築し、EPA産生の効率化が上昇するかどうかを検討する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で出張等が制限され、研究打合せのための旅費や学会参加費の執行が出来なかった。今年度の余剰金部分については、次年度の消耗品の購入や論文投稿費用に使用する計画である。
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