2021 Fiscal Year Research-status Report
ピロリン酸による植物の代謝制御とそれを応用した植物機能改変
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20K05826
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
瀬上 紹嗣 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (00765935)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ピロリン酸 / 糖代謝 / プロトンポンプ / デンプン / 液胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
野生型H+-PPaseと、H+輸送活性のみを欠損しPPi分解のみを行う変異型H+-PPaseをコルメラ細胞特異的に発現させると、デンプンが減少し液胞体積の増大する表現型が観察されていた。コルメラの1-2層ではH+-PPaseとsPPase発現が局所的に低いことから、重力感知の平衡石であるデンプン粒維持のためPPi加水分解活性が低いという説を提唱していた。しかし、表現型の評価のため液胞膜局在型H+-ATPase AHA10を発現させたところ、予想外に同様の表現型が見られた。さらに、酵母や大腸菌可溶性PPase発現株では表現型が今のところ見られていない。これらは、PPiの減少が原因であるという予想と反する。 青色光照射による気孔のH+-ATPaseの活性化と30分以内に起きるデンプンの分解が知られており、細胞質のアルカリ化との関係が議論されているが、具体的な活性化経路は不明である(Horrer et al., 2017)。コルメラ細胞における我々の観察では、表現型は暗条件において顕著に見られるため青色光は関係がないが、H+ポンプの駆動と連動することは共通している。 以下の可能性を考慮する。一つ目は液胞膜タンパク質の過剰発現の影響である。二つ目はATP/ADP比の低下がデンプン分解系を促進することである。暗条件との関係は糖飢餓を強く示唆し、AHA10異所発現によりATPを消費することでデンプン分解が促進され、可溶性成分が液胞へ蓄積することにより体積増加につながったことが考えられる。H+輸送が二次能動輸送系の強化したことも一考に値するが、H+輸送能を欠損したH+-PPase過剰発現体で表現型がみられることを説明できない。変異酵素ではPPi濃度低下による代謝変動以外に液胞からのH+のリークも考えられ、V-ATPaseへの負荷が強くかかるためにATP消費量が上昇した可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度において、申請者の異動とそれに伴うエフォートの変化があり、またコロナ禍による研究の中断があった。また、研究実績の概要に記載した通り当初意図していない結果が出たため、さらなる仮説検証の必要が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
コルメラ細胞における表現型の評価のため、いくつかの形質転換体の作製を行う必要がある。まず、液胞膜タンパク質過剰発現体としてγ-TIPやVam3など、比較的多量に存在しうるものをコルメラ特異的に発現させる。そして、ATP/ADP比を測定するためのATPセンサーを各種変異体へ追加導入し、測定する。 観察された表現型の評価と再現性取得のため、ラインの充実と追試を行う。H+-ATPaseによる表現型の検証として新たにフシコクシンによるH+-ATPase活性化実験や、部位変異を導入して活性を恒常的活性化または不活性化させた酵素の導入を検討している。 エフォートの変化に対応するため、新規に技術支援員を雇い研究を推進する他、必要に応じて研究期間の延長を考えている。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた理由として、研究を行うための機材や試薬などが使える環境にあり、今年度使用のために温存したため。 繰り越した経費を基に新たに研究支援員を雇うことで研究を進展させる予定である。
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