2021 Fiscal Year Research-status Report
米アルブミンの大量調製法の確立とその消化ペプチドの血糖値上昇抑制作用機序の解明
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20K05883
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
熊谷 日登美 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20225220)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 米アルブミン / ジャポニカ米 / インディカ米 / ジャバニカ米 / 米糠 / グルコース吸着 / 血糖値上昇抑制 / 糖尿病予防 |
Outline of Annual Research Achievements |
糖尿病の患者数は世界的に増加しており,2045年には約7億人になると推定されている。糖尿病患者の大半は2型であり,この予防と治療には,食後の血糖値上昇を穏やかにする食品の摂取が有効である。我々はこれまでに,ジャポニカ米における16 kDaの米胚乳アルブミン(REA)が,哺乳類のα-アミラーゼを阻害しないにも関わらず,血糖値の上昇を抑制し,その作用機序は,消化酵素による分解で生成した14 kDaの難消化性ペプチドがグルコースを吸着し排泄を促進すると共に,2 kDa以下の低分子ペプチドが,小腸のグルコーストランスポーターの発現を抑制するというダブルの効果によるものであることを明らかにしている。このように,REAは糖尿病予防効果を有する食品素材としての利用価値が高いが,抽出効率が悪いことが課題である。昨年度は,廃棄されることが多い米糠から,種々の酵素を用いて,効率的な米糠アルブミン(RBA)の抽出を試み,米糠を緩衝液に溶解し,α-アミラーゼを作用させた後,グルコアミラーゼやトリプシンを作用させることにより,多糖や夾雑タンパク質の除去条件の確立を行った。本年度は,米糠からのアルブミンの抽出法をさらに改良すると共に,インディカ米およびジャバニカ米からアルブミンを抽出し,REAとの比較を行った。その結果,米糠をクエン酸ナトリウム緩衝液に一晩浸漬することにより不溶性多糖が容易に除去でき,さらに,ヘミセルラーゼを作用させることにより,食物繊維が分解され,アルブミンの精製度が向上することを明らかにした。また,インディカ米もジャバニカ米も,そのアルブミン画分は,REAと同様に,14 kDaの難消化性のペプチドを含有していた。拡散実験により評価したインディカ米とジャバニカ米由来アルブミンのグルコース吸着能は,REAよりも低かったものの,ある程度の吸着効果は見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで,不溶性の多糖が残存しており,酵素での分解が効率的ではなかったが,米糠をクエン酸ナトリウム緩衝液に一晩浸漬することで,不溶性多糖が容易に除去でき,タンパク質の純度が約2.5倍増加した。さらに,α-アミラーゼに加えてヘミセルラーゼを作用させることにより,残存している食物繊維の一部が分解され,タンパク質純度が約1.5倍増加した。これにトリプシンを作用させることにより,夾雑タンパク質の除去も可能であった。また,これまで用いてきたジャポニカ米に加え,インディカ米やジャバニカ米の中にも,同様のタンパク質が存在するか検討した結果,インディカ米やジャバニカ米のアルブミンも,消化酵素で分解されない 14 kDaの難消化性ペプチドを含むことが明らかになった。 研究は,概ね,計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,16 kDaのアルブミンを消化酵素により分解して得られる14 kDaの難消化性ペプチドと2 kDa以下の低分子ペプチドをゲル濾過クロマトグラフィーにより分画し,低分子ペプチド画分をさらにHPLCにより,分画していく。そして,マウス小腸上皮由来のSTC-1細胞に,低分子ペプチド画分を添加し,グルコーストランスポーター(SGLT1)の発現抑制効果をウェスタンブロッティングにより調べる。そして,SGLT1発現抑制効果の高いペプチドの配列を,nano LC-MS/MSにより同定する。さらに,STC-1細胞を用い,同定した機能性ペプチドが,小腸に発現している甘味受容体T1R2/T1R3からGタンパク質であるガストデューシンを介してSGLT1発現までの経路のどこを阻害しているのかを,経路中のタンパク質のウェスタンブロッティングやその遺伝子のPCR増幅等により調べる。また,同定した機能性ペプチドを蛍光標識し,STC-1細胞の甘味受容体T1R2/T1R3への結合の有無を調べる予定である。
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