2020 Fiscal Year Research-status Report
High hydrostatic pressure inactivation of Escherichia coli under molecular crowding conditions
Project/Area Number |
20K05887
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
山本 和貴 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, グループ長補佐 (00353954)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 分子クラウディング / 高圧処理 / 大腸菌 / エチレングリコール / ポリエチレングリコール / 損傷菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌、黴、酵母、寄生虫等の微生物を高圧不活性化し、特に食中毒細菌及び腐敗細菌についての微生物学的安全性を高めることで、食品高圧加工が実用的に用いられている。処理条件として、圧力、温度、時間の影響について多くの報告が見られる一方で、微生物を取り囲む食品マトリックスの影響に関しては、水分活性、pH等、従来の食品加工で調べられてきた限られた視点での報告が殆どである。食品マトリックス毎に、特に希薄系と濃厚系とでは、微生物不活性化効果が異なることが経験的に知られるが、その系統的解釈は無いに等しい。一方、分子クラウディングの概念は、細胞内外における濃厚系での生化学反応を解釈するために重要であることが近年指摘されている。 そこで本研究では、分子クラウディング効果の視点から、食品マトリックスが細菌の高圧不活性化に及ぼす影響を解明する。分子クラウディング状態が高圧不活性化に及ぼす影響を調べるための細菌としては、高圧不活性化研究で知見蓄積が進んでいる大腸菌ATCC25922を採用する。これを異なる分子クラウディング状態のリン酸緩衝水溶液中で高圧処理する。高圧処理は、食品高圧加工で実用最大圧である600 MPaに加えて、これまでの損傷大腸菌研究で用いてきた400 MPaまたは500 MPaで実施する。処理後の試料は、選択培地及び非選択培地に平面塗布して培養することで、死滅と損傷とを区別して判定すると共に、回復に及ぼす温度の影響、コロニー形成能、膜損傷の視点を加えて高圧損傷大腸菌の挙動を調べることで、分子クラウディング状況下での損傷菌発生及びその回復挙動について調べる。 本年度は、分子クラウディング状態が高圧不活性化に及ぼす影響について主に調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子クラウディング剤(molecular crowding agent; 以下、MCA)としては、分子量(MW)の異なる既知物質として、エチレングリコール(EG; MW: 62)、二種類のポリエチレングリコール、PEG200(MW: 190~21)及びPEG4000(MW: 2,600~3,800)を用いた。 大腸菌ATCC25922は、MCAを0、10、20、30、40 %(重量)で含み、pH 7.4に調整したリン酸緩衝液に、初発菌数約10 log CFU/ml(以下、log)となるように懸濁した。これを400、500、600 MPaにて25 ℃、10分間の処理に供した。試料は、適宜希釈後に選択培地(desoxycholate agar)及び非選択培地(standard method agar)に平面塗布し、37 ℃で培養後にコロニーを計数した。非選択培地での培養は、高圧損傷菌の検出が促進される報告のある25 ℃でも実施した。 400~600 MPaでは、選択培地でのコロニー検出が無く、健常菌は存在しないと考えられた。一方、非選択培地では、MCAの濃度の影響を受けつつ、400 MPaで5~8 log(25 ℃)・3~7 log(37 ℃)、500 MPaで5~7 log(25 ℃)・1~6 log(37 ℃)、600 MPaで4~5 log(25 ℃)・不検出~3 log(37 ℃)であった。つまり、37 ℃よりも25 ℃での培養で損傷菌検出が促進され、処理圧力が高い程、損傷菌が減少した。 MCA無添加系では、25 ℃検出では、処理圧力に依らず、5 logの損傷菌が検出され、MCA添加系では、無添加系と比べて、400 MPa処理では、損傷菌数は増加し、いずれのMCAでも30 %添加で最大であった。500 MPa処理では、MCAの種類により最大となる濃度が異なった。600 MPa処理では、25 ℃検出による損傷菌数は、MCAの種類及び濃度の影響は少なかったが、37 ℃検出では、EG30 %添加で最大となった一方で、PEG添加系ではいずれも不検出であった。 以上、EG及びPEGをMCAとした実験系において、損傷大腸菌の損傷挙動を解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
大腸菌ATCC25922の高圧不活性化に於けるMCAの添加効果を、EG、PEG200、PEG4000添加により調べ、MCAの種類によって損傷菌発生効果が異なることが示された。装置の故障、コロナ禍による修理の遅れ等の問題があったものの、研究は概ね順調に進捗したことから、更にMCAの種類の影響を調べるため、研究報告がある多糖類のFicollについて、これを添加する影響を解明しつつ、本年度の成果を踏まえて条件を精査し、MCA添加におけるコロニー形成能等の損傷菌特性解明を続ける。
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Causes of Carryover |
本実験専用で使用する高圧加工装置(神戸製鋼所社製 Dr. Chef)が故障し、その後修理を依頼するも、コロナ禍により日程調整等が難航し、更には故障箇所の特定、必要部品の再調達等が必要となり、結局修理が完了したのが2021年2月であった。修理完了まで部品費を含めた高額な修理額が確定せず、会計年度末までに時間が無かったことから、残額を次年度使用額とせざるを得なかった。 次年度使用額は、上記の高額修理費のために初年度に購入できなかった比較的高価な分子クラウディング剤(Ficoll等)または分子クラウディング剤候補の購入に充当する。
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