2021 Fiscal Year Research-status Report
電磁界解析に基づく安全簡単な本格的遠赤外線クッキングパンの新規開発
Project/Area Number |
20K05910
|
Research Institution | Ishikawa Prefectural University |
Principal Investigator |
藤田 萩乃 石川県立大学, 生物資源環境学部, 講師 (90845190)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 油 / 誘電体 / インピーダンス / IH |
Outline of Annual Research Achievements |
揚げ物調理において,食材からの水分の溶出を抑え,かつ食材への油の吸収を抑えられるときに揚げ物は美味しくカラッと揚がる。以下,この状態を「美味しい揚げ物効果」と呼称する。揚げ油中に電界を印加したときに揚げ物が美味しくカラッと揚がるときの電界印加条件は10kHz~100kHz,2.5kV/mである。このとき食用油中の溶存水はエマルションを形成することが分かっている。さらに経験的な事象として,油が新しい場合や印加時間が短いとき,電界出力が小さいときに「美味しい揚げ物効果」が得られないことが分かっている。これは揚げ油中にエマルションが十分にできていない状態と思われる。そこで東陽テクニカ製マテリアルインピーダンスアナライザMIA-5Mにより,周波数100mHz~5MHz,振幅1Vとしインピーダンスの周波数特性をとり,コールコールプロットを描画した。その結果,RC並列+R直列の等価回路にフィッティングできた。「美味しい揚げ物効果」のあるときとないときではサンプル間で容量Cに差はないが,直列抵抗分には1桁程度の違いがあることが分かった。この現象は単純にはエマルション粒がホッピング伝導に寄与しているためと考えられる。これを確かめるため,食用油中の数種類の脂肪酸を1種ずつ分離し,「美味しい揚げ物効果」が得られるときの電界印加条件と,水分子の水素結合力との相関を取り,ホッピング伝導への寄与を検討する。水素結合力を間接的に得る方法としてFT-IRで水分子の振動のシフト量を計測するべく液体用セルを準備中である。またコールコールプロットを描画するためにインピーダンス周波数特性を取りたいが東陽テクニカ製装置は高価で貸与を継続できないため,安価な日置製の装置を導入した。容量Cが大きすぎると測定限界になってしまうため,電極の面積を大きくし,ギャップを小さくできる治具を製作中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
放射塗料を塗布したIH専用使い切り揚げ物ナベにおいて,半身浴揚げ物(食材の高さの半分以下の油しか使わずに行う揚げ物調理)が焦げ付かず,美味しくカラッと揚がる事実について,放射伝熱解析からのアプローチを検討していた。しかしながら使い切りナベは面積に比べ極端に薄いためアスペクト比が大きくなり,shell要素とすると油への放射及び対流の連成解析が難しく,美味しさとの相関を得られそうなパラメータを特定することが困難であった。過去の事例を調査したところ,油の浴槽に設置し,電界を印加することで食材が美味しくカラッと揚がる装置があり,食材水分の油への溶出や揚げ油の食材への吸収が抑えられ,揚げ油の使用量が削減できる他,揚げ時間短縮,油中溶存水の突沸低減等の効果があることが分かった。しかしながら今日までに多くの食品メーカや飲食店で導入されてきたが,電界印加のパラメータが絞りきれないことで,食材への効果が一定ではなく,再現性もなかった。産総研や大学機関らが電界による食用油への効果について,電気毛管現象の解析やエマルション粒子径の測定を行ってきたが,電界印加効果との明示的な相関は得られていない。電界を印加したときに揚げ物が美味しくカラッと揚がるときの電界印加条件は10kHz~100kHz,2.5kV/mである。この周波数帯はIH調理器の調理時の周波数帯と同程度である。また製作中の赤外線放射できる使い切りナベは,使い切りとするため材質にアルミ箔を選定し,厚みは7~60μmである。極薄板であるためIH調理器の磁界を完全に打ち消すことはできない。このモレ磁界(電界)が前述の市販装置と同様の効果をもたらしていると考えられる。そこで使い切りナベを空焚きし,ナベが焼き切れる数秒の間にモレ電界の強度を簡易的に測定したところ数kV/mの電界を測定できた。今後は電界印加による油の性状の変化を明らかにしていく。
|
Strategy for Future Research Activity |
「美味しい揚げ物効果」が得られるときの食用油中エマルション数との相関をとるため,誘電体のインピーダンス周波数特性を測定し等価回路によりRC並列+R直列の等価回路の抵抗値を測定していく。具体的には以下の手順で進める①Cの値が12桁以下になるような電極を作成する。②カルボニル基やシアン基のような水分子が水素結合し易い誘電体を選定しインピーダンスアナライザによる周波数特性を測定し,等価回路を作成,パラメータ値を得る。また②で選定した誘電体2種を混合しパラメータの変化の相関を取る。③性状が明らかになってきたタイミングで各条件下における食材内部の温度経時変化を測定する。④水素結合力と得られたパラメータの相関を取る。⑤油槽の形状や食用油の量が電界印加の効果に及ぼす影響を数値化する。 また交流電界印加後の誘電体中の水分子の振る舞いを誘電体の電子吸引基と水素結合する水分子の分子振動を測定することで明らかにする。具体的には以下の手順で進める。①カルボニル基やシアン基のような水分子が水素結合し易い誘電体を選定し誘電体中に水分を混入しカールフィッシャー計による水分量絶対値との相関を算出する②FT-IRにて溶存水スペクトルを測定し水素結合力を算出する③電界印加後,水素結合力がどのように変化するか測定する。④①で選定した誘電体2種を混合し水素結合力を算出する⑤さらに複数の誘電体を混合し一般的な食用油にフィッティングさせる。 また,IH調理器が発生させる電磁界がアルミ箔ナベを通過し同じように食用油に寄与するのか明らかにする。具体的には以下の手順で進める。①アルミ箔ナベを通過する電界強度を測定し前述の2種の実験を行う。②商品化に向けナベの仕様を決定する。
|