2020 Fiscal Year Research-status Report
植物資源からの多糖類の抽出とそれを利用した食品機能剤の創出
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20K05919
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中村 彰宏 茨城大学, 農学部, 教授 (00803735)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 植物 / 資源 / 食品 / 多糖類 / 安定剤 / 乳化剤 / 機構解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究の目的】 植物資源の食品としての高度利用を目的に研究を進めている。本年は食品の品質向上に欠かせない分散安定剤と乳化剤などの機能剤の創出を目的に研究を行なった。植物資源としては安定して供給されるレンズ豆とインゲン豆に注目し、デンプンやタンパク質などの栄養成分を分離した繊維質からの機能剤の創出を試みた。 【研究の実施と成果】 レンズ豆繊維から、加熱温度120℃、加熱時間90分の条件で分子量80万~100万のレンズ豆多糖類(LPS)が得られた。得られたLPSは温度および剪断速度の変化に対して粘度に変化が見られないニュートン流体の特徴を示した。原子間力顕微鏡で観察したLPS分子は部分分岐をもち、ペクチンに近い構造であることが確認された。LPSは酸性条件下で乳タンパク質粒子をメディアン径0.5 um 以下の状態で微細分散する機能を有した。また、LPSを添加した乳飲料はペクチンを添加した乳飲料よりも低粘度であり、飲み口がすっきりとした乳飲料の提供できる可能性が示唆された。一方、インゲンマメ繊維から加熱温度120℃、加熱時間30分の条件で分子量80万~100万のインゲン豆多糖類(KPS)が得られた。2.5% レモンオイル、2.5% KPSの系でメディアン径0.7 um のO/W乳化物を調製することが可能であった。KPSのエステル基と共存タンパク質に注目して乳化機構を解析した。KPSは構成するウロン酸のエステル化度の低下に伴って乳化活性が低下した。また、乳化界面に吸着するKPSに共存するタンパク質は疎水性アミノ酸に富んでいた。以上のことから、KPSはウロン酸のエステル基と共存タンパク質の疎水領域が疎水基として働くことで油滴表面に吸着し、多糖類糖鎖が親水基として働くことで乳化状態を形成すると推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究助成により、マメ類のデンプン、タンパク質、及び繊維等成分を効率良く且つ大量に分離する遠心分離機が購入できたため、おおむね計画通りに研究を進めることができた。また、植物資源としてはマメ類(レンズ豆とインゲン豆)に絞ることで、食品の機能性素材、特に、乳飲料の分散安定剤や乳化食品の乳化剤の機能を有する多糖類を得ることに成功した。乳飲料の安定剤や乳化剤を創出する基本的な製法が確立できたため、次年度以降は、当該プロセスを基本に植物資源の幅を広げて研究を進めることが可能になると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で、植物資源から栄養成分としては利用価値が低い食物繊維を分離する手法、さらには水溶性食物繊維である多糖類を高温加圧抽出する基本手法を確立することができた。多糖類は植物資源の種類や組織により分子サイズや構造が異なることが明らかになり、食品の利用する場合の用途や基本特性(分散、乳化、ゲル化など)も異なることが推察される。したがって、繊維からの多糖類の抽出、成分の化学分析、分子量のSEC-MALS法による分子量と分子形状の解析、原子間力顕微鏡による分子構造の推察、水溶液の粘度特性の解析を基本的な研究のアプローチとし、解析結果に基づいて食品加工における最適な機能の推察と当該機能の解析を推し進める。さらに、構造と機能の相関解析は多糖類機能剤の応用において極めて重要な研究課題である。次年度以降については、加工食品の微細構造の解析の解析と食品構造における多糖類機能剤の役割を解明するため、走査型及び透過型電子顕微鏡による構造観察に加え、免疫染色法を取り入れた蛍光顕微鏡観察についても課題として取り組みたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大により、外部の研究機関への出張を差し控えたため、未費用額が生じた。 令和3年度において、外部機関への出張旅費に使用する。
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