2021 Fiscal Year Research-status Report
植物資源からの多糖類の抽出とそれを利用した食品機能剤の創出
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20K05919
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中村 彰宏 茨城大学, 農学部, 教授 (00803735)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 植物 / 資源 / 食品 / 多糖類 / 安定剤 / 乳化剤 / 構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究目的】本研究は食品残差である繊維質から水溶性多糖類を抽出し、分子構造の解明並びに食品の品質向上に寄与する機能剤として活用することで、繊維質の高度利用と高付加価値化を最終目標とする。本年はインゲン豆繊維から得たインゲン豆多糖類(KPS)に関し、乳化香料や粉末香料など乳化食品に欠かせない多糖類乳化剤としての特性と乳化機構の解析を目的に研究を行なった。 【研究成果】2.5%レモンオイル、2.5%KPSの系にて高圧ホモジナイザーで調製した水中油型の乳化香料は、メディアン粒径0.7μmで微細分散しており、食品乳化剤として利用されるアラビアガムを用いて調製した乳化香料のメディアン粒径0.8μmに勝る乳化活性を示した。KPS及びアラビアガムで得た乳化香料を4℃, 20℃, 40℃, 60℃で30日保存し、乳化物のメディアン粒径を測定するとともに、乳化香料に残存するリモネン量をSPMEを用いたGC-MSで分析し、保存安定性とリモネン徐放性を解析した。30日保存したアラビアガム乳化物は40℃及び60℃保存でメディアン粒径が1.5μm及び3.2μmまで増大し、リモネン量は85%及び73% まで減少した。KPS乳化物はメディアン粒径が1.0μm及び1.4μmとアラビアガム乳化物より粒径変化が小さい一方、リモネン量は74% 及び 55 %まで減少した。この結果よりKPSはアラビアガムに勝る乳化安定性を示す一方、香気成分の徐放性に優れることが明らかになった。DLSを用いて解析した油滴表面のKPS糖鎖の厚さは15~25nmと見積もられ、KPS分子の粒径12~20nmに近いことからKPSは単分子層で油滴表面に吸着していると推定された。また、KPSに含まれるタンパク質も乳化性に寄与することが示唆されており、KPS特有の多糖類とタンパク質による複合乳化が香気成分の叙法性に影響することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究助成により、植物性資源を構成する澱粉、タンパク質、及び繊維質等の成分を効率良く分離する遠心分離機と、精緻な温度制御が可能なサーマルサイクサーが購入できたため、概ね計画通りに研究を進めることができた。また、植物性資源として世界的に安定生産・流通しているインゲン豆に絞って研究を進めることで、食品の加工性、品質、保存性の向上に欠かせない天然乳化剤をインゲン豆の繊維から獲得することに成功した。さらに、乳化機能を有するアラビアガムと大豆多糖類に関する先行研究の知見を活かし、KPSの乳化機構と乳化安定性を解析することができた。さらに乳化香料に含まれる香料成分のGC-MSによる定量分析系を確立し、アラビアガムとKPSの油滴表面の構造が香料成分の徐放性に影響を与える可能性を示唆した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究で、代表的な植物性の食糧資源である豆類を原料に澱粉、タンパク質、繊維質を分離する手法を確立し、さらに繊維質から高い収率で水溶性の多糖類を抽出する手法を確立することができた。多糖類は原料の種類や組織により分子サイズや分子構造(水分散時の分散形状)が異なることが明らかになっており、食品に利用する場合の用途(加工助剤、安定剤など)と機能特性(分散、乳化、ゲル化など)も異なると考えられる。したがって、繊維質からの多糖類の抽出、成分の化学分析、分子量のSEC-MALS法による分子量と分子形状の解析、原子間力顕微鏡による分子構造の推察、水溶液の粘度特性の解析を基本的な研究の基本的なアプローチとし、解析結果に基づいて食品加工における最適な機能の選定と機能発現のメカニズム解析を研究の推進方策とする。本年度はKPSの乳化安定性が既存の食品乳化剤であるアラビアガムに勝ること、また、香気成分の経時的な徐放性に優れることを見出し、その機能特性が油滴表面に配向する成分、すなわち、多糖類とタンパク質の複合乳化系に起因する可能性を示した。KPSは分岐型多糖類と推定しているが、油滴界面における形状(存在状態)は明らかになっていない。多糖類の構造と機能の相関解析は多糖類機能剤の応用において極めて重要な研究課題である。また、油滴表面に吸着するタンパク質の状態を解析することも香気成分の徐放メカニズムの解明においては重要である。次年度は、乳化香料の油滴表面のミクロ構造の解析を走査型及び透過型電子顕微鏡で観察することに加え、免疫染色法を取り入れた蛍光顕微鏡観察にも取り組みたい。
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Causes of Carryover |
乳タンパク質の分散安定化と水中油型乳化物の乳化と分散安定化の機能を有する新規な多糖類をインゲン豆から創出することに成功したため、当初計画していた顕微鏡観察用の冷却チャンバーの購入を見送り、食品の精密な加熱試験を行うためのサーマルサイクラーの購入に充当した。尚、未使用の研究費は、令和4年度において、加工食品中のタンパク質粒子や乳化粒子の分散性を数値化するために必要な分光光度計の購入に充当する。また、COVID-19の感染拡大により、外部の研究機関への出張を差し控えたため、計画旅費においても差額が生じた。令和4年度において、外部機関への出張旅費に使用する。
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[Journal Article] Extraction of water-soluble polysaccharides from kidney beans and examination of their protein dispersion and stabilization properties under acidic conditions2021
Author(s)
Nakamura, A., Ohboshi, H., Sakai, M., Nomura, K., Nishiyama, S., Ashida, H.
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Journal Title
Food Research International
Volume: 144
Pages: 110357
DOI
Peer Reviewed