2021 Fiscal Year Research-status Report
非栄養性食品分子によるGPR120/インクレチンシグナリング制御機構の全容解明
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20K05927
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
光武 進 佐賀大学, 農学部, 准教授 (10344475)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | phytosphingosine / GPR120 / teadenol |
Outline of Annual Research Achievements |
長鎖脂肪酸受容体GPR120は、小腸上皮内分泌L細胞に発現し、食品中の脂肪酸に応答しインクレチンの一つGLP-1の分泌を促進する。GLP-1は、脳下垂体や膵β細胞に作用し、インスリンの分泌促進、食欲抑制等、抗メタボリックシンドロームに働く事が知られている。私はこれまでの研究で、酵母の細胞膜を構成するスフィンゴ脂質の一つphytospshingosine (PHS)がGPR120を活性化する事を見出した。本研究では、PHSや他の食品成分によるGPR120を介した新しい食品機能を明らかにする事を試みる。昨年度までに、GPR120の新規リガンドを食品成分を対象にスクリーニングし、微生物発酵茶に含まれるteadenol Aが新規リガンドになる事を報告した。これまで見出されたGPR120のリガンドの多くはカルボキシル基を持ち、これがGPR120との結合に重要であると考えられてきた。teadenol Aはカルボキシル基を持つが、興味深い事にPHSはカルボキシル基を持たず、これまで知られていなかった新たな結合様式でGPR120へ作用している事が考えられた。そこで私は、in silicoでGPR120の立体構造モデルを作成し、ドッキングシミュレーションを行いPHSとGPR120の結合様式を予想した。さらにGPR120のポイントミューテーションを行い、PHSがGPR120のE249に結合し活性化していることを明らかにした。同様の実験でカルボキシル基を持つ脂肪酸やteadenol AはGPR120のR264に作用する事が示され、これらの結果からPHSが全く新しい作用様式でGPR120を活性化している事が明らかになった。この知見は発酵食品に含まれるPHSの新たな食品機能メカニズムを明らかにしただけでなく、GPR120の新たな創薬ターゲットに向けた情報提供にもつながるものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これ迄の研究で私は、GPR120新規リガンド探索を行い、酵母の細胞膜に含まれるPHSを見出してきた(Journal of Biochemistry, 2018, 164, 27-30)。本研究では、さらにスクリーニングの対象を広げ、微生物発酵茶に含まれるteadenol Aが新規リガンドになる事を見出し、昨年度これを報告した(Food & Function, 2020, 11, 10534-10541)。本年度は、PHSがGPR120に全く新しい結合様式で作用することを明らかにし報告した(FEBS OpenBio, 2021, 11, 3081-3089)。GPR120のX線結晶構造は未解明であり、PHSの詳細な作用機序を明らかにする事は困難を伴う事が予想されたが、私は、in silicoで作用部位を予想し、in vitroの実験でこれを解明する事に成功した。この結果から、研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
長鎖脂肪酸受容体GPR120は小腸内分泌細胞だけではなく味蕾細胞に発現し、脂の味覚に関与すると言われている。脂味覚は、高エネルギー分子である脂肪酸の摂取に応答する為のシステムで、脂に対する満足度やその後の摂食行動に強く影響を及ぼす。一方、GPR120の活性化は、脂味覚応答がもたらす摂食行動を抑制する可能性が示されている。我々は予備的な実験で、PHSがGPR120を活性化するものの脂肪酸受容体CD36/FATを活性化しない事を掴んでいる。つまりPHSは、脂味覚に対して常に抑制系のスイッチを入れる可能性がある。そこで今後は、脂味覚におけるPHS/GPR120シグナリングがどの様に関与するかを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
covid-19蔓延により旅費が必要無くなった。また、研究は予定以上に順調に進展した為、経費の出費が抑えられた。
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