2020 Fiscal Year Research-status Report
HPLC-ESR分析法による含着色成分青果物の高抗酸化活性物質の探索と機能評価
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20K05937
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
田嶋 邦彦 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (50163457)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スーパーオキシドラジカル / 抗酸化活性 / 行者ニンニク / HPLC-ESR |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は北海道を中心に自生しているニラ科植物の行者ニンニク(GN)に含まれるスーパーオキシドラジカル消去活性成分を対象として研究を進めた。 まず、花芽が出現する前後の行者ニンニク(GN1、GN2)の水溶性成分を調製し、凍結乾燥後にNMR測定を試みた。GN1およびGN2ともに主成分はグルコース、スクロースであり、その含有量はGN100 gあたり200~600 mgであった。芳香環を有する微量成分として水酸基を有するケイ皮酸誘導体の存在し、GN2の含有量はGN1の1.5倍であった。他方、アミノ酸含有量では、GN2のグルタミン酸含有量がGN1の約2倍に達した。 次に、FI-ESR法によって求めたGN1およびGN2の抗酸化活性をそれぞれコーヒー酸換算濃度([CA]eq)として533 μMおよび367 μM と評価した。HPLC-ESR法によって、GN1およびGN2に含まれるスーパーオキシドラジカル消去活性物質のポストカラム-オンライン分析を試みたところ、GN1の主要抗酸化活性物質は水酸基を有するケイ皮酸誘導体とフラボノイド誘導体であり、その活性は合計でコーヒー酸換算濃度として249 μMに達した。その他に、アスコルビン酸および芳香族アミノ酸の寄与がそれぞれ 533 μMおよび151 μMであった。他方、GN2のHPLC-ESRにはフラボノイド類に起因する溶出ピークが観測されず、ケイ皮酸誘導体とアスコルビン酸の寄与がそれぞれ95μMおよび50 μMであった。花芽の出現後にGN1でフラボノイド誘導体の寄与が認められたことは興味深い結果である。食味はグルタミン酸含有量に富むGN1が優位であるが、抗酸化活性では花芽出現後に含有成分が変化したGN2が優れていることが判明した。本年度は、NMRによる成分分析とHPLC-ESRによる抗酸化活性成分の探索を併用する研究法の優用性が証明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、成長段階が異なる行者ニンニク分を測定対象として、含有成分のNMRによる成分分析とESRによるスーパーオキシドラジカル消去活性の評価を行い、両者の結果を比較することで行者ニンニクの抗酸化活性を精密に解析した。 花芽出現後の行者ニンニクの水溶性成分は淡黄色を呈し、その光吸収スペクトルには300 nm 近傍に吸収極大が観測された。この吸収極大はフェノール性水酸基あるいはケト基を有するフラボノイド誘導体に類似していることから、花芽の出現によって水溶性の高いフラボノイド配糖体等の含有量増加が予想された。NMR測定では主に糖類とアミノ酸の定量を行い、花芽出現前の試料にグルタミン酸が多く含まれることが判明した。この結果は花芽出現前の食味が市場で高く評価されている傾向と一致している。 FI-ESR装置で評価した行者ニンニク水溶性成分のスーパーオキシドラジカル消去活性は、花芽出現後に約1.5倍増加することが明らかになった。さらに、HPLC-ESR分析の結果から、花芽出現後に認められた抗酸化活性の増強はフラボノイド類に起因することが判明した。このように、NMR測定測定では検出できなかった微量成分であるフラボノイド誘導体の含有量が花芽の出現前後で顕著に変化し、その結果として抗酸化活性が変動する傾向が明らかになった。 年度は、光吸収、NMRおよびESRによる抗酸化活性評価を併用することで、成長時期が異なる行者ニンニクの食味および抗酸化活性の相違点を微量含有成分の濃度と関連づけて議論することができた。本年度は、当該課題が目指している、青果物の含有成分と機能性の精密解析に合致する研究成果が得られた。 以上研究結果から、本年度の研究進捗状況を「概ね順調に進展している」として評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、市場で機能性物質として取り上げられている有色物質を多く含む青果物を対象として、NMRによる成分分析とESR法による抗酸化活性物質の探索を併用し、有色青果物の精密な機能評価を行う。 プチトマトを測定対象として、収穫段数ごとに水溶性成分および脂溶性成分を抽出する。脂溶性成分に含まれるリコペンなどの共役二重結合分子の含有量を光吸収スペクトル測定によって定性的に評価する。必要に応じて逆相クロマトグラフトマトによる精密分析を行う予定である。次に、水溶性成分のNMR測定を行うことで、糖類、アミノ酸およびポリフェノール物質の含有量を評価する。さらに、水溶性成分についてESR法によるスーパーオキシドラジカル消去活性を本年度と同様の手法で解析する。これまでの予備実験では、トマト水溶性成分にはコーヒー酸などのポリフェノール類が主要な抗酸化活性物質であることが判明している。プチトマトの収穫段数、リコペン含有量、水溶性成分の抗酸化活性の関連性を解明し、リコペン含有量と水溶性抗酸化活性に相関関係が存在するか否かについて議論を進める予定である。 紫芋およびブルーベリーに含まれるアントシアニン誘導体の抗酸化活性に着目した研究を推進する予定である。具体的な試料として、紫芋を原料とする食酢を測定対象として、昨年と同様のNMRおよびESR測定を行う。アントシアニンのC環オキソニウム骨格は中性領域で容易に開環してカルコン型に変化するため、抗酸化活性におけるC環の寄与が限定的であることが予想できる。むしろ、アントシアニン誘導体は複数のコーヒー酸、フェルラ酸などのケイ皮酸誘導体が結合した配糖体として存在しているため、アントシアニンの抗酸化活性の大部分はケイ皮酸誘導体に起因する可能性が予想される。本年度の研究ではアントシアニンが抗酸化活性を発揮する構造部位を明らかにしたい。
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Research Products
(3 results)