2020 Fiscal Year Research-status Report
還元糖の新規機能の開発-キラル化合物のラセミ化抑制作用機構の解明と食品への展開
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20K05944
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
小玉 修嗣 東海大学, 理学部, 教授 (70360807)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多賀 淳 近畿大学, 薬学部, 教授 (20247951)
會澤 宣一 富山大学, 学術研究部工学系, 教授 (60231099)
山本 敦 中部大学, 応用生物学部, 教授 (60360806)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光学異性体 / キラル化合物 / シクロデキストリン / 高速液体クロマトグラフィー / ラセミ化 / マンデル酸 / 還元糖 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は柑橘類に存在する(R)-シネフリンの加熱によるラセミ化(一方の光学異性体から他方の光学異性体が生成し、最終的に2種類の光学異性体が50%ずつになること)を還元糖が抑制することを見いだした (Anal. Sci., 2019, 35, 407-412)。この結果から、どのような化学構造を有する化合物に対して還元糖がラセミ化抑制作用を有するのかを検討し、その抑制作用機構を明らかにすることを目的とする。 (1) 新規な光学異性体分析法の開発:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により光学異性体を分析する方法として、移動相(溶離液)にキラル化合物を加えて通常の分析カラムで分析する方法がある。移動相は使い捨てであるため、高価なキラル化合物(2種類の光学異性体の片方)を使えないという欠点があり、報告例は少ない。近年、シクロデキストリンを移動相に添加して光学異性体分離する方法が報告されているが、1日の実験で5~10 gのシクロデキストリンが必要となり、実用性に欠けていた。そこで本研究では、従来のシクロデキストリン使用量を1/20以下に抑えたマンデル酸の光学異性体分析法を開発した。また、この方法で2-アミノ-1-フェニルエタノールやフェニルアラニノールも光学異性体分離できることを確認した。 (2) 加熱によるラセミ化の検討:上記の光学異性体分析法を用いて、マンデル酸、2-アミノ-1-フェニルエタノールやフェニルアラニノールの3種類の化合物を加熱してラセミ化が起こるかどうかを検討した。残念ながら、これら3種類の化合物がいずれもラセミ化は観察されなかった。 (3) 新たなキラル化合物への対応:上記(1)の方法による光学異性体分析法を応用して、上記3種類以外の化合物での光学異性体分析法を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 新規な光学異性体分析法の開発:シクロデキストリンを添加した移動相を用いるHPLC法による光学異性体分析法を検討した。対象物質をマンデル酸とした。その結果、0.1% (w/v) ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を添加した移動相とフェニルカラムとを組み合わせたHPLC法により、マンデル酸が光学異性体分離した。すなわち、0.1% (w/v) HP-β-CDを含む溶液を1時間フェニルカラムに流した後、HP-β-CDの濃度を0.02% (w/v) に下げた移動相で分析したところ、再現性のある分析結果が得られた。この光学異性体分析法の特徴は、従来報告されてきた方法に比べて1日当たりのシクロデキストリン使用量を1/20以下に抑えられたことである。この分離はフェニルカラムでだけ見られる現象であった。今回の実験結果から、シクロデキストリンはカラムのフェニル基に結合し、分析化合物であるマンデル酸とシクロデキストリン、フェニル基との三元複合体が形成されていることが推定された。光学異性体分離の結果からD-マンデル酸との三元複合体の方がL-マンデル酸との三元複合体より安定であることが推定された。この結果については、Chirality, 2020, 32, 1020-1029に掲載された。 また、上記の方法を応用して、分析条件は若干と異なるが、2-アミノ-1-フェニルエタノールやフェニルアラニノールも光学異性体分離できることが分かった。 (2) 加熱によるラセミ化実験:本研究の目的である還元糖によるラセミ化抑制作用を明らかにするためには、試料化合物が加熱によりラセミ化することの確認が必要となる。そこで、上記3種類の化合物を100 ℃で加熱し、光学異性体分析した。しかし、いずれの化合物もラセミ化がみられなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
シクロデキストリンを添加した移動相とフェニルカラムを用いるHPLC法による光学異性体分析法は、有効であることが確認された。今後は、この方法を応用して新たな化合物の光学異性体分析法を検討する。 (1) すでに加熱によるラセミ化が認められているシネフリンと類似の化学構造をもっているアドレナリンやノルアドレナリンを対象とした分析条件を検討している。今年度開発した光学異性体分析法ではシクロデキストリンの種類や濃度を任意の割合で使用できること、および一度使用したカラムであってもアセトニトリル水溶液で洗浄することにより、カラムに吸着したシクロデキストリンを除去できるメリットを生かし、シネフリンも含めた光学異性体分析法の検討を始めている。この方法が確立でき次第、加熱によるラセミ化及び還元糖によるラセミ化抑制について検討する。 (2) 加熱によりラセミ化が知られているカテキン類についても、上記と同様に光学異性体分析法を検討中であり、分析法が確立でき次第、還元糖のラセミ化抑制作用を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度は試薬類や器具類の一部を研究室にある既存のものでまかなうことができ、研究目標を順調に達成することができた。 今年度で得られた成果に基づいて次年度に展開する研究の幅を広げるために、今年度の繰り越し金と次年度の助成金を合わせて新たに試薬類や器具類を購入する予定である。
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Research Products
(2 results)