2021 Fiscal Year Research-status Report
還元糖の新規機能の開発-キラル化合物のラセミ化抑制作用機構の解明と食品への展開
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20K05944
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
小玉 修嗣 東海大学, 理学部, 教授 (70360807)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多賀 淳 近畿大学, 薬学部, 教授 (20247951)
會澤 宣一 富山大学, 学術研究部工学系, 教授 (60231099)
山本 敦 中部大学, 応用生物学部, 教授 (60360806)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光学異性体 / キラル化合物 / シクロデキストリン / 高速液体クロマトグラフィー / ラセミ化 / 還元糖 |
Outline of Annual Research Achievements |
還元糖によるラセミ化抑制作用を明らかにするため、新規な光学異性体分析法の開発、及び還元糖によるラセミ化抑制作用について検討した。 (1)フェネチルアミン類 メチル化β-シクロデキストリン(メチル化β-CD)を吸着させたフェニルカラムを調製し、4種類のフェネチルアミン(ノルアドレナリン、アドレナリン、オクトパミン及びシネフリン)が光学異性体分離されることを見いだした (J. Sep. Sci. 2021, 44, 2932-2940)。アドレナリンを100 ℃で30分間加熱したときの残存率は14%であった。(R)-アドレナリンを加熱しても異性化はみられなかった。0.4 mMアドレナリンに100 mMの各種糖類を加えて100 ℃で30分間加熱すると、アドレナリンの残存率はフルクトース(51%)、グルコース(29%)、スクロース(17%) となり、還元性を有する糖類がアドレナリンの分解を抑制することがわかった。 (2)カテキン類:フェニルカラムを用い、β-CDを含む溶離液によりカテキン(C)とエピカテキン(EC)を光学異性体分析することができた。ただし、Cの光学異性体分離に必要なβ-CD濃度は0.05%であるのに対して、ECでは0.6%と高かった。そこでCとECの両方を光学異性体分析するために、β-CD濃度のステップワイズ法を用いた。(+)-Cを100 ℃で加熱すると (+)-ECが、(+)-ECを加熱すると(+)-Cが生成した。0.025 mM (+)-C水溶液中に0.1 Mのスクロース、グルコースあるいはフルクトースのいずれかを加えて100 ℃で30分間加熱すると、フルクトースでのみエピ化の抑制がみられた。同様の結果は(+)-ECのエピ化でも得られ、フルクトースにエピ化抑制作用のあることがわかった(J. Chromatogr. A 2022, 1673, 463029)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は柑橘類に存在する(R)-シネフリンの加熱によるラセミ化(一方の光学異性体から他方の光学異性体が生成し、最終的に2種類の光学異性体が50%ずつになること)を還元糖が抑制することを見いだした (Anal. Sci., 2019, 35, 407-412)。この結果から、どのような化学構造を有する化合物に対して還元糖がラセミ化抑制作用を有するのかを検討し、その抑制作用機構を明らかにすることを目的とする。本研究を達成するためには新規な光学異性体分析法の開発が不可欠である。 (1) 昨年度は従来のシクロデキストリン使用量を1/20以下に抑えたマンデル酸の光学異性体分析法を開発した。また、この方法 で2-アミノ-1-フェニルエタノールやフェニルアラニノールも光学異性体分離できることを確認した。上記の光学異性体分析法を用いて、マンデル酸、2-アミノ-1-フェニルエタノールやフェニルアラニノールの3種類の化合物を加 熱してラセミ化が起こるかどうかを検討した。残念ながら、これら3種類の化合物がいずれもラセミ化は観察されなかった。 (2) 本年度はフェネチルアミン4種類(ノルアドレナリン、アドレナリン、オクトパミン及びシネフリン)及びカテキン類2種類(カテキンとエピカテキン)の光学異性体分析法をそれぞれ確立した。ノルアドレナリンとアドレナリンについては加熱による異性化はみられなかったが、加熱により分解が起こった。この分解に対する各種糖類の影響を検討した結果、フルクトースに分解抑制効果のあることが確認された。(+)-カテキンの加熱により起こる(+)-エピカテキンへのエピ化が起こる。このエピ化に対する還元糖の影響を調べたところ、フルクトースにエピ化抑制作用のあることが分かった。 (+)-エピカテキンの加熱による(+)-カテキンへのエピ化でも同様の結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
シクロデキストリンを添加した移動相とフェニルカラムを用いるHPLC法による光学異性体分析法は、有効であることが確認された。今後は、この方法を応用して新たな化合物の光学異性体分析法を検討する。 (1) 植物ホルモンのアブシジン酸も上記のHPLC法で光学異性体分離できることを見いだしている。今後、最適な分析条件を検討し、再現性試験や直線性試験を行った後、アブシジン酸の加熱よる異性化について検討する。また、アブシジン酸は分子内に2つの二重結合が存在する。現在までの検討の結果、アブシジン酸の紫外線照射によるシス-トランス異性化が見られることを確認している。そこで、この異性化に及ぼす各種糖類の影響を検討する。(2) これまでシクロデキストリンを加えた溶離液を用いた光学異性体分析法について検討してきた。この方法は有用であるが、シクロデキストリンとの相互作用を示さない化合物には分析対象とはならない。そこで、シクロデキストリン以外のキラル化合物を用いた光学異性体分析法について現在検討している。この方法の有用性が示されれば、さらに幅広い化合物の光学異性体分離が可能となり、本研究で利用可能な化合物も増えることが期待される。
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Causes of Carryover |
今年度は試薬類や器具類の一部を研究室にある既存のものでまかなうことができ、研究目標を順調に達成することができた。 今年度で得られた成果に基づいて次年度に展開する研究の幅を広げるために、今年度の繰り越し金と次年度の助成金を合わせて新たに試薬類や器具類を購入する予定である。
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