2020 Fiscal Year Research-status Report
Molecular basis and significance of yeast symbiosis in traditional food fermentation processes
Project/Area Number |
20K05958
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡辺 大輔 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30527148)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 発酵食品 / 微生物共生 / アルコール発酵 / Saccharomyces cerevisiae / ブドウ果皮常在菌 / Aureobasidium pullulans / 生もと乳酸菌 / Tup1p-Cyc8p複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
発酵食品の伝統的製法における原材料植物または他種の微生物との共生を担う因子の解明を目的として、以下の2つの課題に取り組んだ。 (I)ワインの自然発酵における微生物共生:ワインの起源では、ブドウ果皮に存在する微生物がアルコール発酵を担ったとされている。本研究では、食用、ワイン用のブドウから、果汁、洗浄液、集積培養液を調製し、クロラムフェニコール(抗細菌用抗生物質)を添加した寒天培地上で生育させることにより、多数の酵母様コロニーを取得した。rRNA遺伝子間のITS領域のシーケンス解析の結果、酵母様真菌として知られるAureobasidium pullulansをはじめ、80以上のブドウ果皮常在菌の種を同定した。アルコール発酵酵母として知られるSaccharomyces cerevisiaeやその近縁種は検出されず、単離されたブドウ果皮常在菌はいずれも顕著なアルコール発酵性を示さなかった。S. cerevisiaeとA. pullulansを共培養し損傷を受けていないブドウ果実に接種すると、S. cerevisiae単独接種の場合と比べて発酵初速度が上昇した。このことから、A. pullulansによる果皮の分解がS. cerevisiaeの果肉へのアクセスを促進することで醸造環境の形成に関与する可能性が示唆された。実際に、A. pullulansが果皮成分であるペクチンやクチクラ層を分解・資化することも明らかにした。 (II)清酒の生もと造りにおける微生物共生:清酒の伝統的製法である生もと造りでは、乳酸菌との共存によって発酵過程における酵母の生存率が高められることを以前に見出している。本研究では、環境中のグルコースに応答して、遺伝子発現をグローバルに変化させる酵母Tup1p-Cyc8p複合体が本現象に関与している可能性に着目し、乳酸菌との相互作用を調べるための酵母変異株を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブドウ果皮常在菌との相互作用因子に関するテーマについては、現在までに、ブドウ果皮常在菌がブドウ果皮成分を標的として分解・資化することでS. cerevisiaeによる醸造環境の形成に貢献している可能性を新たに示すことができた。このような発酵食品の起源における原材料植物-微生物間の共生は本研究の基盤を成すものであり、今後の解析を円滑に進めるための鍵となる知見を得ることができたと考えられる。また、生もと乳酸菌との相互作用因子に関するテーマについては、過去のデータの再解析を中心に行い、標的因子の候補を絞り込むことで研究を進捗させることができた。標的因子の変異株を構築し、今後、酵母-乳酸菌間の相互作用を評価するための準備を完了させた。
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Strategy for Future Research Activity |
発酵食品の伝統的製法における原材料植物または他種の微生物との共生を担う因子を遺伝子・タンパク質レベルで明らかにするために、以下の2つの課題を中心的に取り組む。 (I)ワインの自然発酵における微生物共生:ブドウ果皮常在菌における果皮成分の分解・資化に関与する酵素遺伝子を同定し、酵素の機能・構造に関する解析を行う。これらの酵素の機能欠損や過剰発現がアルコール発酵や共生関係に及ぼす影響を調べることで、本酵素が発酵食品における原材料植物-微生物間の相互作用の初発反応を担う鍵因子であることを実証する。 これまでの研究により、アルコール発酵に適したSaccharomyces属酵母はブドウ果皮にほとんど存在しないことが示された。自然発酵におけるS. cerevisiaeの由来を明らかにするため、ワイン発酵過程などにおける果皮成分と微生物叢の変化を、それぞれメタボローム解析とメタゲノム解析により調べることで、ブドウ果皮における生態系の全体像の理解を目指す。 (II)清酒の生もと造りにおける微生物共生:これまでに構築した酵母Tup1p-Cyc8p複合体のプリオンドメイン欠失変異株を用いて、生もと乳酸菌との相互作用に及ぼす影響を調べる。また、プリオンドメインを有する他のタンパク質の遺伝子破壊株、プリオンドメイン欠失変異株についても同様の解析を行う。以上の解析を通して、乳酸菌が酵母に働きかける標的因子を同定し、そのメカニズムとしてタンパク質のプリオン化が関与するというモデルを証明する。 以上の研究を通して、発酵食品の伝統的製法における原材料植物または他種の微生物との共生現象に関与する因子を明らかにし、相互作用メカニズムの解明につながる知見を得る。さらに、このような現象が他の発酵食品の製造においても共通して生じていることを示すことで、本研究により見出した共生現象の汎用性・重要性を見出していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、参加した全ての学会がオンライン開催となった。このため、計上していた旅費を計画通りに使用することができなかった。また、緊急事態宣言により実験室での作業に係る人数が制限されたため、受託研究用の実験を進めることができなかった。このため、「その他」に計上していた受託研究費用を計画通りに使用することができなかった。次年度に、これらの未使用の研究費を物品などの購入費用や受託研究費用として充当し、本研究の円滑な遂行のために活用する。
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