2021 Fiscal Year Research-status Report
真核生物のリボソーム合成制御の新規機構:ラパマイシン結合タンパク質の真の役割
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20K05965
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
笠原 浩司 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (40304159)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志波 優 東京農業大学, 生命科学部, 准教授 (00647753)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リボソームタンパク質遺伝子 / 転写 / FKBP12 / 出芽酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
出芽酵母のFKBP12をコードするFPR1は、その遺伝子破壊(fpr1Δ)が、リボソームタンパク質遺伝子(以下RPG:ribosomal protein gene)の転写に関わるHmo1の遺伝子破壊(hmo1Δ)との二重破壊により、著しい生育阻害を示すという発見を元に、Fpr1とHmo1が協調的にRPGsの転写因子であるFhl1/Ifh1コアクティベーター複合体をプロモーターにリクルートするという転写制御の仕組みを明らかにした。しかし、もはやFpr1の役割が不要となるはずのFhl1遺伝子破壊株(fhl1Δ)にfpr1Δを組み合わせると、さらに著しい生育阻害を引き起こしたことから、Fpr1はFhl1/Ifh1のリクルート以外に重要な役割を持つことが強く示唆されたため、その役割の解明を中心に遺伝学的手法を駆使して研究を進めている。 また114aaからなるFpr1タンパク質の最初のメチオニンを除く全てのアミノ酸を一つずつアラニンに変えていった変異体を作製して解析を行い、Fpr1の既知、あるいは未知の機能に重要なアミノ酸残基、及びドメインの決定を目指している。こうして得られる各種機能が失われたFpr1変異株の生育異常をサプレスする変異を取得し、Fpr1 の機能に関連する他の因子、及びそれらが協調して働く仕組みを解明する。 一方、出芽酵母で見つかったFKBP12の転写因子としての機能が他の真核生物でも保存されているかという疑問についても分裂酵母、ヒト培養細胞、及び病原性真菌であるCandida glabrataを用いてChIP-seq、RNA-seqなど、出芽酵母の研究で用いたのと同様の手法で解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
出芽酵母Fpr1によるRPG遺伝子転写制御の仕組みについて、遺伝学的解析を中心に研究を行った。FPR1遺伝子破壊と他のRPG転写因子の遺伝子破壊株、あるいは変異株の掛け合わせにより、Fpr1とHmo1、Fhl1、Ifh1、Rap1等との機能的関連について種々の知見を得た。これらの知見については、詳細な実験結果を加え、次年度中に論文として報告したいと考えている。 またFpr1の1番目を除く全てのアミノ酸残基を順にアラニンに変えた(アラニンはグリシンに変えた)変異体シリーズを用いて解析を行ったところ、Fpr1のRPGプロモーター結合に異常を持つ変異を複数単離した。一方、プロモーターに結合できるものの、それ以降の機能を欠いていると見られる変異も多数同定された。これらの変異体の異常を詳細に解析すると共に、その異常を抑圧する変異を単離、解析することにより、Fpr1の各種機能を切り分けると共に、関与する他の因子やその仕組みを明らかにして行きたい。 本研究のもう一つの柱であるFpr1の転写因子としての機能の普遍性については、分裂酵母を用いて行ったChIP、及びChIP-seq解析においてFpr1のオルソログであるFkh1はRPGプロモーターのみならず、染色体上のどこにも結合は見いだされなかった。一方、出芽酵母に近縁と考えられているC.glabrataについても同様の解析を行ったところ、Fpr1がRPGプロモーターに結合することが明らかとなった。また、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によりヒト培養細胞HEK293に対してFKBP12遺伝子破壊、及びC末端への免沈用タグ挿入に成功しており、これらの細胞を用いてChIP-seqやRNA-seq などの解析によりFKBP12 が転写因子として働く可能性を検証していく。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画で、申請者が出芽酵母で見いだしたFKBP12の転写因子としての機能の真核生物における普遍性を調べることを掲げ、分裂酵母やヒトを対象にそれを推進して来た。次年度は引き続きそれを継続し、早い時期に結論を得たいと考えているが、これらに加え病原性真菌C.glabrataを同計画に加える(既に一部結果を得ている)。C.glabrataはFKBP12に加え、Hmo1、その他のRPGの転写因子についても出芽酵母のオルソログとの類似性が高く、ヒトや分裂酵母に比べて、より出芽酵母に近い転写制御機構が動いている可能性が高いと予想される。もしFKBP12が関与する転写制御機構が出芽酵母やC.glabrataなど一部の真菌類でのみ働いているのであれば、その仕組みを解明し、それを阻害する薬剤を開発することは、それらの真菌の生育を選択的に阻害する抗真菌薬の有望な候補として期待される。そこで出芽酵母とC.glabrataのFKBP12、その他の転写因子の機能的な互換性を調べるとともに、出芽酵母を対象として行ってきたChIP-seqやRNA-seqなどの解析手法をC.glabrataに適用し、本酵母におけるFKBP12の転写因子としての機能について解析を行っていく。現時点までにChIP-seqによる解析によりFpr1その他の因子がC.glabrataにおいても出芽酵母と同様にRPGのプロモーターに結合することが明らかとなっているが、C.glabrataが出芽酵母に比べて実験材料や実験手法などについて確立していないことが多いため解析の進みが遅い。今後はCRISPR/Cas9、その他出芽酵母で有効な解析ツールをC.glabrataの研究にも導入、あるいは独自に開発しながら、2022年度内には一定の結論を得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
コロナのため、ある期間申請者、及び研究分担者の大学への入構が制限され、研究の時間を十分にとれなかったことから、計画していた研究の一部を予定通り実施できず、次年度へ持ち越すことになった。特に、ChIP-seqやRNA-seqなど、大学内の専門部署と共同で年度内に実施予定であったNGSを用いた高額の支出を要する実験の一部が予定通り年度内に行えなくなってしまい、まとまった額を次年度に持ち越すことになった。次年度は計画していた実験を順次実施していく予定である。
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