2020 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集を利用したリン酸飢餓耐性を持つイネの作出と遺伝子機能の解析
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20K05973
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
松本 隆 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (60370681)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イネ / ゲノム編集 / リン酸吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は我が国の主要な作物であるイネに必須な元素であるリン資源の枯渇に対応するために、ゲノム編集技術を活用して、植物のリン酸のホメオスタシスを改変し、低リン酸条件において生育するイネ突然変異体を作出することが目標である。令和2年度はリン酸ホメオスタシスの”制御因子”として機能するOsSPX1タンパク遺伝子をターゲットにし、ゲノム編集ベクターを構築して形質転換イネを作出することを目標とする。OsSPX1遺伝子は3つのエクソンからなるが、第1エクソン配列内にCRISPRdirectプログラムを用いてゲノム編集の目印であるPAM配列を検索し、PAM配列とOsSPX1遺伝子の20bp配列をgRNA発現ベクターpUC_ccdB_gRNAに挿入した。このプラスミドからgRNA発現カセットを切り出し、イネ形質転換バイナリーベクターpZH_gYSA_MMCas9に挿入してCas遺伝子と直列に繋ぎ、イネゲノム編集用ベクターを作成した。ベクターの構成はベクター特異的PCRと配列解読を行って確認している。このベクターをアグロバクテリウムEHA101にエレクトロポレーションで導入し、ついでイネ品種日本晴のカルスにアグロバクテリウムを感染させて形質転換した。感染させたカルスから薬剤選抜・植物ホルモンによる再分化を経て180個体を作出した。このうち32個体を選びゲノムDNAを抽出してSPX1遺伝子のターゲット配列周辺の200bpをPCRで増幅し、PCR断片を直接シーケンス解読した。配列が解読できた30個体のうち、変異が生じていなかった個体は7,同じ変異が両方の染色体に生じたホモ変異は2,2つの染色体で異なる変異が起きたヘテロ変異が13,複数の変異が混在するモザイク変異が8個体であった。これらの変異体候補を用いて、低リン酸水耕栽培によってイネを栽培し、葉内のリン酸濃度を測定したが、T0個体ではヘテロ性が強く、明確なリン酸濃度の差は見いだされていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間の3年間でリン酸代謝遺伝子をゲノム編集したイネを作出し、機能解析を行って当該遺伝子の機能を明らかにする。初年度ではSPX1遺伝子の第1エキソン内にターゲットを設定し、gRNA発現ベクターを構築し、バイナリーベクターに挿入してイネゲノム編集用ベクターを作成した。このベクターをアグロバクテリウムEHA101に導入、ついでイネカルスを形質転換した結果、抗生物質抵抗イネが得られた。SPX1の変異部分のみをPCR増幅し、配列解読したところ、ホモ変異(7%)、ヘテロ変異(43%)のデータが得られた。特に形質転換当代でホモ変異が得られたことは、イネの形質転換効率(=ゲノム編集効率)を表していて興味深い。当初の計画通り、ゲノム編集個体の育成に成功したことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)OsSPX1遺伝子変異植物体について OsSPX1の変異体(ヘテロ個体)について、次世代種子確保のため、短日条件で生育して種子(T1)を形成し、この種子から得られた植物個体をさらに短日条件で水耕栽培し、ここから種子を収穫する。このようにして得られた種子(T2種子)を低リン酸培地で育成し、親である日本晴個体と比較しながら形態や生育の違いを明らかにする。また葉・根・茎部のリン酸濃度を測定し、低リン酸条件下でリン酸吸収が変化するかをモニターする。 2)OsSPX1以外のゲノム編集 植物のリン酸代謝には、OsSPX1以外にもリン酸収制を負に制御しうるゲノム編集のターゲットが存在する。その中の一つとしてOsNLA1を選択した。OsNLA1遺伝子はユビキチンE3リガーゼ活性を持ち、イネリン酸トランスポーターをユビキチン化し、プロテオソームによって分解することでリン酸吸収を阻害しており、リン酸吸収リミッターとなっている。研究ではまずNLA1のE3リガーゼ活性に関与すると推定されるRINGドメインにゲノム編集ターゲットを定める。OsSPX1遺伝子と同じくgRNAを構築して、形質転換binary vectorに挿入後Agrobacteriumを形質転換、アグロ菌を感染させてイネ細胞を形質転換し、組換え個体を得る。得られた組換え体におけるNLA1遺伝子のターゲット部位の配列を解読し、ゲノム変異を検出し、リン酸吸収能の検定を行う。
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