2020 Fiscal Year Research-status Report
Genetic analysis of vertical transmission of Epichloe uncinata endphyte in Lolium multiflorum Lam.
Project/Area Number |
20K05989
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
田村 健一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (10414749)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清 多佳子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (40391362)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イネ科牧草 / イタリアンライグラス / エンドファイト / 垂直伝播 / Epichloe uncinata |
Outline of Annual Research Achievements |
イタリアンライグラス「JFIR18①」由来集団と糸状菌エンドファイトEpichloe uncinata共生系を実験材料として、エンドファイトの種子移行性の遺伝的分離現象の確認を行なった。具体的には、過去の交配実験からエンドファイトが全ての種子へ移行する顕性対立遺伝子をA、種子へ全く移行しない潜性対立遺伝子をaとする1遺伝子制御モデルを仮定し、7組合せの感染済種子親Aa x 花粉親aa交配後代母系についての種子移行性を評価した。栽培環境条件は(1)閉鎖系温室、(2)ガラス温室、(3)屋外圃場とした。幼苗時の茎葉部にエンドファイトが感染していることを確認した母系について上記条件で栽培・放任受粉後採種し、各個体の種子の感染の有無を検鏡により調査した。遺伝モデルが正しければ、移行:非移行が1:1となる表現型分離が期待されたが、全ての個体が種子移行型であり、またその多くの個体において全ての種子でエンドファイトの感染が確認された。一部の母系は株分け後複数の環境下で調査を行なったが、いずれの環境においても全ての個体が種子移行性を示した。そこで過去に種子移行性の分離が確認された「JFIR18①」について、栽培環境(1)および(2)において再現性の確認を試みた。その結果、過去に一定の割合で検出されたエンドファイトが種子へ全く移行しない個体は本試験では認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初、イタリアンライグラス「JFIR18①」のE. uncinataの種子移行性がイタリアンライグラスの遺伝子型により移行型と非移行型に分離すること、および種子移行性が1対立遺伝子座により制御されることを前提に、エンドファイト垂直伝播に関わるイタリアンライグラスの遺伝的要因を解析する予定であった。しかし今年度の実験では全ての「JFIR18①」由来個体がエンドファイト種子移行型を示したことから、種子移行制御遺伝子座のマッピングに至らなかった。ただし、このようにイタリアンライグラス- Epichloe共生系において感染植物体から種子への菌の移行がほぼ完全に行われることが検証された系統はこれまでになく、また害虫防除など実用上必要とされる共生系の安定性確保という観点からすると、今回の結果はむしろ本系統の実用上の有用性を示すものと思われた。過去の試験結果と本研究の齟齬にかかる要因については調査中であるが、少なくとも栽培環境の影響は低く、植物体における感染・非感染の判断の精度に、過去の試験時に問題があった可能性が考えられた。一方、当初の研究計画を変更する必要が生じたため、「4.今後の研究の推進方策」に記した内容に研究の方向性をシフトする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
イタリアンライグラスーエンドファイト共生系の生活環におけるエンドファイト感染率低下リスクが生じうるプロセスとしては、植物体から種子への移行の他に、種子保存中の菌の生存維持および発芽時の菌の幼苗への移行がある。本研究を含むこれまでの試験結果から、イタリアンライグラス-E. uncinata共生系は、自然界に存在するイタリアンライグラス-E. occultans共生系と比較し、幼苗における感染率が低い可能性が示唆されている。そこで本研究の目的をイタリアンライグラス-E. uncinata共生系における低幼苗感染率の要因の解明として、改めて研究を推進する。 具体的には、まず共生系間の精緻な比較を行うために、遺伝的背景が同様なイタリアンライグラスにE. uncinataもしくはE. occultansが感染した実験材料を作出する。これにメドウフェスク(E. uncinataの自然界の宿主)-E. uncinata共生系をコントロールとして加え、これら3共生系における種子から幼苗への移行を定量的に評価し、エンドファイトと宿主の親和性の影響を明らかにする。さらにイタリアンライグラス-E. uncinata共生系の上記プロセスにおける不安定性の要因として推測される、種子における感染菌量、菌の活性および菌の局在等を解析し、低幼苗感染率との関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
今年度は当初行う予定であった種子移行制御遺伝子座のマッピングが「現在までの進捗状況」に記載の通りできなかったため、一部経費を計画通り執行できなかった。その分の経費を、「今後の研究の推進方策」に記した実験を実施するために次年度使用する予定。
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