2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on the relationship between paddy rice on the condition of single basal application of total nitrogen fertilizer in the nursery box and high density seedling
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20K05994
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
高橋 行継 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (60516615)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水稲栽培 / 水稲育苗箱全量基肥 / 密苗 / 省力 / 低コスト / 稲麦二毛作 / 肥効調節型肥料 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国の稲作農業は狭い国土や中小零細規模が多い水稲経営体にとって大型機械体系導入を前提とした大規模経営は必ずしもそぐわない面がある。そこで経営規模によらず導入可能な省力・低コスト技術として有効な水稲育苗箱全量基肥施肥 (以下、箱全量)と高密度播種(以下、密苗)栽培の両技術の融合を検討する。本研究では、高温条件等によって健苗育成が懸念されるため密苗の普及対象となっていない北関東の稲麦二毛作地域での本技術導入に焦点を絞る。両技術の融合技術に関する十分な検証を行い、栽培マニュアルを構築して本技術の普及を目指し、令和元年度までの予備試験に引き続き,3か年の本検討を開始した。 令和2年度は密苗条件下での健苗育成と慣行並の移植精度が可能な条件を満たす育苗箱投入可能な施肥量の上限について、掻き取り調整可能範囲内での播種量、栽植密度を考慮した施肥設計の下、育苗試験を本学農場内で実施した。これらの苗を群馬県館林市の現地圃場で栽培試験を実施し移植精度や生育収量、品質等を検討した。 その結果、箱全量専用肥料を供試品種「あさひの夢」の標準施肥量に対する40%、20%減肥とした密苗各区の苗の生育は、対照の箱全量専用肥料なし、培土のみの密苗区に対して草丈や葉齢に有意差はなかった。標準区 (培土のみの慣行播種量) との比較では葉色のみ前出3区が有意に濃くなった。移植時の苗質は密苗条件の3区で乾物重が標準区よりも低下し充実度はやや劣ったが、既往の報告と同様の傾向を示した。苗マット強度は20%減肥で最も弱くなったが、移植作業及び移植精度の影響はなかった。初期生育は40%、20%減肥区でやや劣る傾向にあったが,これは肥料の溶出特性に起因する現象として認知されており、収量への影響は認められなかった。 先行試験の結果も踏まえ、両技術の融合に技術的な障害は少なく、低コスト・省力化技術として普及し得る感触をつかんだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度までの予備試験の結果を受けて、本研究を開始したこともあって実質2年目の試験となり、計画は概ね順調に進んでいる。中でも水稲育苗箱全量基肥栽培における育苗箱内の肥料投入量と健苗育成との兼ね合いが最大の課題であるが、草丈や葉齢などの外観には実用的な問題はなく、克服すべき課題は苗マットの強度確保となる。今年度は過去の研究結果から箱内施肥量を最大1400 g以内に設定した。さらに苗マット内の根がらみを良好にするシートを箱内底面に敷設する対策を施すことで、移植に問題がないだけの苗マット強度を確保することが可能であることが明らかになった。この結果、密苗専用田植機による移植作業に問題がないことを実証できる見込みが立ちつつある。本田移植後の生育、収量については、従来の水稲育苗箱全量基肥栽培試験における筆者らの様々な成果もあり、予備試験を含む本研究でも問題点は少ない。 しかしながら、近年は年次による気象変動の振れ幅が大きい。今年度は移植後の6月下旬から8月初旬まで冷温・寡照の気象条件となった結果、活着後の生育が全体的に遅延し、生育量も抑制された。とりわけ箱全量栽培は供試肥料として被覆尿素を利用していることから、その溶出は基本的に温度依存であり、年次による気象変動が水稲の生育・収量に対して少なからず影響を与える側面を否定し得ない。この点は初年目の予備試験結果も含め明らかである。今後複数年にわたる検討によって、両技術融合による安定多収技術の実証が現地への普及に向けて重要であると考えており、引き続き検討を続ける必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
主に本田栽培における気象の年次間変動の検討と共に、本研究における箱全量と密苗栽培の技術融合の成否には育苗の良否が大きく最終結果を左右する。特に肥料が移植時に本田に投入されることから、育苗箱内に投入する箱全量専用肥料の量と移植時の掻き取り設定の組み合わせが極めて重要である。 また、施肥量は品種や地域の気象や土壌条件、食用か飼料用かなどの生産物の利用目的によって大きく変化する。さらに移植時期によって単位面積当たりに必要とする育苗箱数も異なってくることから、これらの諸条件を十分に加味した上で育苗箱に投入する箱全量肥料の投入量についての設計を綿密に行う必要がある。本研究の最終目的とする栽培マニュアル化を図るためには地域ごとの栽培品種、育苗・移植時期、標準的な施肥量を反映できるものを作成する必要がある。しかしながら、全てのパターンに対応する試験を今回の限定された現地試験において達成することは困難である。 このため、本研究では普及対象をひとまず北関東稲麦二毛作作期をターゲットにして実施し、この条件下で当該地域における普及品種を用いた安定多収技術を確立することを第一の目標とする。詳細な育苗箱内の施肥設計は、共同研究者であるヤンマーアグリジャパン技術者と連携しながら密苗専用移植機の掻き取り調整能力を基準に構築し、マニュアル化を目指す。マニュアルは研究期間中に鋭意見直し、極力汎用性の高いものへと更新をしていく。
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Causes of Carryover |
予算執行中の端数として計算ミスによって残額が発生したものである。令和3年度の調査用機材など消耗品購入に充当予定。
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Research Products
(3 results)