2020 Fiscal Year Research-status Report
揺らいだ分子構造の植物病原菌エフェクターDN3の機能発現機構
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20K06049
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
大木 進野 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 教授 (70250420)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
五十棲 規嘉 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 研究員 (30804512)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エフェクター / 機能 / 構造 / 相互作用 / NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでは植物培養細胞を利用した試料発現システムを用いて研究対象のDN3を調製してきた。しかしながら、将来的な研究の展開を鑑み、より拡張性や汎用性が高い大腸菌を用いた試料発現システムを構築した。 DN3は安定な高次構造を持たないペプチドであることがこれまでの我々の研究によって明らかになっている。このようなアンフォールデッド・ペプチドを大腸菌に発現させた場合、大腸菌に内在する酵素によって分解されてしまう可能性が高い。従って、全長のDN3を安定的に取得するための発現系を構築するためには何らかの工夫が必要になる。今回、我々はKSIタグをDN3のN末端に付加した形で大腸菌に発現させるシステムを構築した。また、精製の簡略化のため、KSIタグとDN3のアミノ酸配列の間にHisタグとプロテアーゼ切断配列を挿入した。この結果、KSIの効果によって、発現させたDN3を沈殿画分から効率的に回収することが可能になった。また、回収した沈殿DN3を変性剤で溶解、Niアフィニティーカラムによる粗精製、プロテアーゼによるタグの切断、HPLCによる精製という調製方法を確立することができた。この方法によりDN3試料を準備した。 一方、既に確立しているカルモジュリン(CaM)の大腸菌による調製方法を利用して、実験に使用するCaMも調製した。今回はNMR用試料として安定同位体13Cでメチオニン残基を選択標識したCaMを準備した。 NMRでCaMのメチオニン残基の側鎖メチル基をモニターしつつDN3の滴定実験を行った。CaMの9個のメチオニン残基をモニターすることにより、CaM分子のどの部分にDN3が結合するか、それぞれの結合の強さに違いがあるか、などの結合様式に関わる極めて重要な情報を入手できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度は、今後の研究の進展が加速するような基盤部分の構築に注力した。具体的には、試料の調製方法の確立や、予備的なNMR実験によって結合様式の詳しい情報が入手可能かどうかを判断することに目標を置き、本課題を遂行してきた。 1年間の研究活動を通じて、まず、拡張性や汎用性が高い大腸菌を用いた試料発現システムを構築してタグ付きDN3を発現できるようになった。これによって発現したDN3試料の精製手順を確立することができた。試料調製方法の確立は、今後のあらゆる実験に非常に有効である。さらに、NMRを用いた予備的な実験を実施し、その結果からDN3とCaMの結合様式に関して新たな知見が得られつつあること。これを発展させていけば、研究期間の2年目、3年目で更なる成果につながる見通しが得られた。 以上のような理由によって、本課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
NMR実験の条件検討を実施する。例えば、異なるpHや温度での滴定実験、異なる安定標識パターンを持つCaMを利用したNMR実験、距離情報を取得するNOE実験、ダイナミクスを議論するための緩和実験などにより、より詳細な結合様式に関する情報を得る。予備実験により、高濃度試料においては白濁が見られることが確認されている。従って、より希薄溶液でのNMR実験や、ある程度高濃度での生物学的相分離の可能性について実験で明らかにしていく。 また、ケミカルクロスリンキングの試薬を利用して複合体情報を取得する。具体的には、鎖長の異なる幾つかのケミカルクロスリンキング試薬をDN3-CaM複合体に作用させ、これをプロテアーゼ処理したのち質量分析を用いて分析することによっても、結合様式に関する構造情報を取得する。質量分析とNMR、複数の手法を相補的に利用することによって、一方だけでは得られない情報を得るほか、互いの実験の結果について再現性や信頼性を担保する。 さらに、DN3とCaMの濃度を変えた試料についてSEM画像を取得し、液液相分離の可能性を探る。これについては、NMRの拡散定数測定やシグナルの線幅など、他の実験も組み合わせて検討していく。
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Research Products
(2 results)