2022 Fiscal Year Research-status Report
ハダニの捕食回避行動を利用してハダニを制御する試み
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20K06051
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
矢野 修一 京都大学, 農学研究科, 助教 (30273494)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (40414875)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アリの足跡物質 / 芋虫の足跡物質 / 偶発的ギルド内捕食 / 下剋上捕食 / 捕食回避 / クロヤマアリ / カンザワハダニ / カブリダニ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまではハダニによるアリの足跡忌避効果を定量的に比べる術がなかったので、アリを任意の部位に一定時間幽閉して足跡物質量を操作する方法を考案した。忌避効果が用量依存的で経時的に弱まること、クロヤマアリの足跡が強く嫌われること、このアリの足跡物質を増量すれば忌避効果が実用に耐える日数続くことが分かった。また、ハダニが巨大な芋虫類に餌葉ごと食べられないように芋虫類の足跡を避けることを前回報告したが、この視点をさらに発展させ、巨大な芋虫(植食者)がハダニの捕食者であるカブリダニ(肉食者)の卵を「下剋上捕食」することや、それを避けるためにカブリダニが芋虫類の足跡を避けて産卵することを世界で初めて発見した。アリと芋虫の足跡物質は別系統の物質なので、将来的に忌避剤として併用できれば相乗効果が期待できる。これら一連の成果により、足跡を介した異種間相互作用の新研究分野を切り拓いたと自負している。さらに、ハダニの雌成虫はハダニの卵が潰れる匂いを感知して防御網から逃げ出すことを発見した。アリなど多くの捕食者は網に籠るハダニを攻撃できないが、ハダニを網外に追い出せれば、網外の捕食者を活かした新しい防除体系が可能になる。 成果発表に関しては、ハダニがアリの足跡物質を嫌うという本研究の中心成果を国際誌で公表してプレスリリースを行い、そのニュースはNHK(関西、京都)と五大紙全てで報道された。ハダニが芋虫の足跡を嫌う成果も国際誌で公表しプレスリリースを行った。久々に現地開催された国内外の学会では、学生と共著で口頭8件とポスター6件の発表を行い大きな反響を得た。第16回国際ダニ学会議(NZ)では、共著学生2名が学生賞、1名がポスター最優秀賞(表彰人数は1名)を受賞し、第67回日本応用動物昆虫学会大会では、共著学生がポスター賞(得票数1位)、英語口頭発表賞(得票数2位)を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
基礎と応用の両面で、本研究課題の目的に沿った大きな前進があった。基礎研究面では、被食者が捕食者の足跡を避ける普遍的な関係だけではなく、偶発的捕食をもたらす大型植食者の足跡を小型植食者だけでなく捕食者までもが避ける事例を発見した。これら一連の研究成果により足跡物質を介した異種生物間相互作用と呼ぶべき新しい研究分野を切り拓くことができたと考えている。基礎研究の最終目標とは、成果を社会へ還元すること、つまり国民に面白がってもらうことであろう。本研究成果が多くのマスコミで報道されたことや、Twitter版プレスリリース記事の「いいね」獲得数が多いことは、本研究成果が国民から面白いと認められたことの証である。また国内外の学会において、共著学生の研究が幾度も表彰されたことは、本研究成果が一般国民だけではなく専門家からも評価されたことの証である。つまり、基礎研究としての最終目標を現時点で半ば以上達成していると考える。 応用研究面の最終目標は、アリや芋虫の足跡物質によるハダニ忌避剤を実用化して、従来の化学農薬だけに頼らない人体と環境に優しい農業の実現に資することである。初年度にクロヤマアリの足跡物質を特定して、ハダニ忌避剤として特許を出願中だが(特願2021-028372)、クロヤマアリの足跡物質によるハダニ忌避効果が用量依存的であることと、これを人為的に増量すれば実用レベルまで忌避効果を延ばせることが分かったことで、忌避剤の製品化への期待が一気に高まり、実用化に向けて企業との連携を進めているところである。以上の状況を踏まえ「当初の計画以上に進展している」と判断した。 ついでながら、円安の影響により論文のオープンアクセス投稿料と国際会議への渡航費までもが当初の計画以上に嵩んでしまったが、いずれも必要かつ有意義な出費だったので後悔はない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究面では、ハダニが芋虫類の足跡物質を嫌うことがわかったので、その物質の特定を目指す。またハダニを防御網から追い出す物質の存在も示されたので、この物質の特定作業も並行して進めたい。将来的にアリや芋虫の足跡物質でハダニの定着を阻む一方で、すでに定着したハダニを網から追い出すことができれば鬼に金棒である。ハダニの生物的防除に利用されるカブリダニがアリや芋虫の足跡物質を嫌えば、生物的防除との併用時に効果を弱めることを危惧する意見もあるが、これは逆にチャンスだと捉えている。ハダニとカブリダニの両者が足跡物質を嫌えば、忌避剤の散布むらによる未散布部位で両者が出会う機会が増えて相乗効果が期待できるからである。この真偽を実験によって確かめたい。 成果発表と忌避剤の実用化については、急がねばならない理由が生じた。昨年末の国際会議は当初対面形式だけの予定だったため、未発表データをその場限りの口頭発表で見せてもリスクは小さいと考えていた。ところが参加者不足のため直前にオンライン併用となったばかりか、口頭発表を撮影した動画をパスワード付きとはいえ無断でインターネット上に公開されてしまった。知的財産権に無頓着で人海戦術をとる某国に真似されるのも時間の問題かもしれない。そうなる前に未発表データの論文投稿を急ぎ、実用化の目途を立てるべくTLO京都(株)の京大技術移転部を介して国内企業との連携を急いで進めている。今年度以降は国際会議への海外渡航予定はないので、国内学会での成果発表に専念する予定である。
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Causes of Carryover |
前年度に前倒し請求した際に、金額を少し多めに請求した結果、次年度使用額が生じた。前倒し請求により次年度使用額は当初の計画よりも少な目なので、物品費購入や旅費等の通常の研究活動で消費できる予定である。
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Remarks |
「ニュース630京いちにち」(11/16)、「NHKニュースおはよう日本」(11/18)、朝日新聞デジタル10/25、日経新聞10/26夕刊11面、中日新聞WEB10/26、産経新聞10/27夕刊6面、四国新聞10/27WEB朝刊、毎日新聞10/28夕刊1面、読売新聞11/9夕刊10面、朝日新聞11/28夕刊3面、中日新聞3/6夕刊6面、信濃毎日新聞3/9夕刊7面、読売新聞5/12(掲載予定)
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Research Products
(24 results)