2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K06057
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
小栗 秀 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (70277250)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | lectin / chitin / tomato |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではトマトに発現するレクチンの役割解明を通して耐病性品種の選抜や分子育種への目標となる知見を集積する。トマト植物体は異なる発現様式を示す2種類のキチン結合性レクチン遺伝子(TLFとTLL)を有する。TLFは根と受粉後10日以降の果実房室組織に発現し、TLLは葉の傷害処理により発現が誘導される。本研究では、品種間におけるレクチン遺伝子の分布や発現応答性の解析、細胞内局在性などの解析から両レクチンの性質を明らかにすること、第二に形質転換体を用いて想定される病害抵抗性の効果の検証 の二方向から研究を進めている。 1.レクチン遺伝子およびタンパク質の解析 ①トマト品種間のレクチン遺伝子の分布:二年度目(R3年度)は栽培品種1系統と野生品種2系統を栽培し、初年度から合計14品種のトマト固定系統の果実と葉におけるレクチン活性を測定した。これらのゲノムにおけるレクチン遺伝子の分布をPCR法で調べたところ、TLFは野生種S. pimpinellifoliumに保存され、ほとんどの栽培品種がこれを有していた。一方でTLL遺伝子は野生種S. habrochaitesと栽培品種2品種に保存されていた。TLFとTLLの両方を有する品種は存在しなかった。TLFを有する品種Micro-TomとTLLを有する品種Moneymakerを交配し、両遺伝子を保持するF1世代を作出した。②細胞内局在性:コドンを大腸菌に最適化したTLL遺伝子を使用し、異種植物発現系を用いてC末端RFP融合タンパク質を調製した。産物の解析からRFPがTLLと分離していることが示された。 2.TLLとTLF遺伝子を過剰発現する組換え植物の作出:TLLとTLF遺伝子を過剰発現するシロイヌナズナおよびタバコをそれぞれ作出した。シロイヌナズナはモンシロチョウを用いた抗昆虫活性の検定に使用し、タバコは糸状菌を用いた抵抗性の検定に使用する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度(R2年度)の前半に学生の研究活動をコロナ禍により停止したことが全体の進度の遅れにつながった。計画を見直した項目を以下にあげる。
1.TLLの細胞内局在性の解明:(目的)TLLのC末端に赤色蛍光タンパク質(RFP)タグを配置したTLL-RFP融合タンパク質をベンサミアナタバコにおいて生産し、局在性を観察した。(問題点)組換え体はレクチン活性を示し、RFP蛍光は細胞壁に観察された。しかし、予想されたTLL-RFP融合タンパク質が生産されず、RFPタグが遊離していた。C末端ペプチド21残基を欠失したTLLにRFPを配置した組換えタンパク質においても、同様にRFPが遊離した。RFP部分に宿主(ベンサミアナタバコ)において切断されやすい部位が存在すると結論した。(対策)GFPタグへの変更を予定している。蛍光抗体法によるトマト葉におけるTLLの組織・細胞内局在部位の観察を進める。蛍光抗体法では共局在を示すオルガネラマーカー抗体が必要であるため抗ペプチド抗体の作出も考慮する。
2. TLLとTLF遺伝子を過剰発現する組換え植物の作出:(目的)トマトレクチンの抗昆虫活性の検定のための過剰発現体作出。(問題点)35Sプロモーター下においてTLFを過剰発現するシロイヌナズナ形質転換体T1植物を12系統作出した。10系統のうちレクチン活性が検出された系統は3系統のみであった。活性(2.3 Titer/g生重量)は、トマト健常葉と比較して1/3であった。抗昆虫活性の検定のためには、トマト健常葉と同程度以上の活性が望ましい。(対策)TLFと同様のドメイン構成を有するキチン結合性レクチンであるチョウセンアサガオレクチンの過剰発現ナズナを作出済みである。本形質転換体は、トマト健常葉と同程度のレクチン活性を示すことから、この組換体を比較対象として抗昆虫活性を検定する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.発現様式の異なる2種類のトマトレクチン遺伝子TLLとTLFについて、両者の発現制御領域を特定し、組織レベルにおいて発現を比較することで遺伝子発現応答の違いを明確にし、両者の特性を明らかにする。①果実および葉組織の蛍光免疫染色により、両者の細胞内局在性を示す。葉においては傷害処理により高発現したTLLについて組織局在性の変化を調べる。トマト細胞において液胞への局在が示されているクラスIキチナーゼあるいはプロテアーゼインヒビターIIとの共局在を示すため抗ペプチド抗体を作製する。②複数の植物病原糸状菌を葉に接種し、TLLとTLF遺伝子の発現をRT-PCRにより検出する。③TLF遺伝子を有するトマト品種マイクロトムと、TLL遺伝子を有するトマト品種マネーメーカーを交配しF1を作出した。自殖F2世代の遺伝子型を調べ、TLFとTLLが対立遺伝子の関係か否か明らかにする。④TL-L遺伝子の5’上流配列を取得し、GFPをレポーター遺伝子に用いて発現解析をマイクロトムとシロイヌナズナを用いて行う。
2.トマトレクチン過剰発現形質転換体を用いた病害抵抗性の検定 ①抗昆虫活性の検定:アブラナ科植物は、トマトレクチンと同様のキチン結合性レクチンを葉に発現していない。このため、導入遺伝子の発現により付与された形質の効果の判定に有効と考えた。二年度目(R3年度)にTLLとTLFをそれぞれ構成的に過剰発現するシロイヌナズナ形質転換体を作出した。モンシロチョウを供試し、成長抑制効果を検証する。②抗糸状菌活性の検定:二年度目(R3年度)にTLLとTLFをそれぞれ構成的に過剰発現するタバコを作出した。これらの遺伝子組換体に病原菌を接種し、野生株との病徴の違いを観察する。③精製トマトレクチンによる抗糸状菌活性の検定:in vitroにおいてトマトレクチンと糸状菌の相互作用を解析する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由)初年度(R2年度)と2年度目(R3年度)に参加した学会発表が共にオンライン開催となったため、旅費が発生しなかったためである。加えて、卒業年次生の研究活動が、コロナ禍のために大幅に減少せざるを得なかったことによる研究活動の遅れにより、消耗品の支出が少なかったことが原因となり、未使用金額が発生した。 使用計画)本プロジェクトにおいて形質転換体の作出と維持作業のために1名の臨時雇を雇用している。これに加えて可能ならば形質転換体の解析などの補助的な研究業務を担当する研究補助員1名を臨時雇用し、研究の進行を加速したい。ただし、学部の立地上、希望に沿う人材が乏しく、確保が困難であり、実行できるかどうか現段階では不透明である。8月までに人材を探し、研究補助員の雇用費用として人件費\424,200円とその研究に使用する消耗品(\145,261円)の支出を計画した。 人件費算出根拠:時給950円x5時間勤務/日x12日勤務/月x7ヶ月(9月~3月)+交通費3,600円/月x7ヶ月
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