2022 Fiscal Year Research-status Report
水面直下にニッチをもつ昆虫の疎水性-親水性超微細リング構造の生理・生態学的解明
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20K06071
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
高久 康春 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 特任研究員 (60378700)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
針山 孝彦 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 特命研究教授 (30165039)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 濡れ性 / 疎水性 / 親水性 / 水生昆虫 / NanoSuit法 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物体表を介した空気や水の界面とのバランスのとれた関係は生存のために不可欠であり、それぞれのニッチの中で進化上ほぼ最適化されている。たとえば、水面上で生活しているアメンボは、疎水性の脚により水面に立ち、素早く水面を滑走することができる。また、水中生活をおくるゲンゴロウでは親水性の体表構造や疎水性の物理的鰓をもち、その特性に注目した研究がなされている。しかし、水面直下をニッチとする生物の研究は皆無であった。本研究では、水面直下にのみ生活域をもつ生物(マダラホソカの幼虫)が、如何なるメカニズムにより水環境との関係を制御し、水面直下に棲息しているのかを解明する。生きた状態のまま電子顕微鏡で高分解能観察できる新技術 (NanoSuit法) を中心に据え、構造解明に基づき機能を明らかにする。また、これまでに報告のある水生昆虫や、未報告の水生昆虫を「疎水性-親水性の組み合わせ」という視点で情報を集積し、生物に共通する特性を探索する。 前年度までの観察・解析から、マダラホソカの幼虫が、腹部にある「超疎水性-超親水性の複合構造」により水面接着を効果的に可能にし、且つ遊泳運動を制御していることがわかった。さらに、NanoSuit法に元素分析法を組み合わせる新技術(NanoSuit-EDS法)により、いろいろな水生昆虫を用いて生体元素や金属元素を指標に生きた超微細構造の解析をおこなった。その結果、親水性溶液中に含ませた標識元素が特異的に結合している微細構造が確認され、マダラホソカ幼虫以外の生物でも超疎水性と親水性の構造を併せもつことが明らかになった。なお、これらの微細構造はNanoSuit法により生きた状態のまま観察・解析したときのみ確認が可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで水面上に生息する昆虫は、疎水性の特性を利用していることのみが注視されてきた。しかし本研究課題により、水面上のみならず、水面直下にニッチをもつ生物は、疎水性ー親水性の特性を共利用していることが明らかになった。つまり、空気と水の界面において、生物は性質の相反する物理特性を効果的に利用し運動制御をおこなっていた。この発見は、例えばアメンボが「疎水性の脚によりスカーリング波を生じ、高い水面滑走能を得ている」というこれまでの定説を覆し、さらに新しい機構を提案する可能性を示唆する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験により、既に疎水性ー浸水性複合機構の構造的特徴および微細構造を明らかにしているが、今後はその機構をさらに解析し、詳細を解明する。具体的には、特異的微細構造の濡れ性を異なる状態(例えば、親水性を疎水性に)に変化させ、或いはそれらの構造を機械的に破壊し、総合的な運動機能との連関を調べる。これらの結果を、これまで報告のあった運動制御機構と照らし合わせ、得られた知見を規範としたモデルの作成に取り組む。
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Causes of Carryover |
研究の展開により、前年度に購入を予定していた物品等を次年度以降に購入することになったため繰越金が生じた。
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Research Products
(3 results)