2021 Fiscal Year Research-status Report
アリにおける集団社会の維持機構:自己・他己認識の成立とその認識因子の解明
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20K06073
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (40414875)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 同巣認識 / 羽化後経験学習 / 体表炭化水素 / 不飽和炭化水素 / 里子里親 / 氏より育ち |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の成果を受けて、羽化後0日、1日、2日、3日、4日齢に加えて14日齢のキャロウも加えた試験を行い、キャロウによる異巣・同巣の成熟ワーカーへの応答と成熟ワーカーによる異巣・同巣のキャロウに対する応答を検証したところ、羽化後4日齢同様に14日齢キャロウは異巣ワーカーに対してのみ顕著な攻撃性を示す一方、羽化後4日齢異巣キャロウに対しては排他的と言えなかった成熟ワーカー側の反応が、羽化後14日齢異巣キャロウに対しては顕著に排他的となることを示す結果が得られた。キャロウが自らの帰属を認識するようになるには羽化後4日ほど、キャロウに対して周囲の成熟ワーカーがその帰属性を識別できるようになるのは4日では不十分だが14日だと十分であることが明らかとなり、これら二つの認識成立時期が明瞭に異なることが判明した。伴なうCHCの比較を行ったところ、羽化後4日齢までは成熟内役ワーカーと比べて明瞭に少ない総量CHCしか保有していないのに対し、14日齢ではそれに匹敵する総量を保有するように変化すること、組成に関してはアルケン(不飽和炭化水素)量と組成比の変化がその認識成立に大きく寄与することを示唆する結果が得られた。この結果を踏まえ、羽化直後のキャロウを他巣に里子に出して14日間経験させた後に、血縁関係にある成熟ワーカーおよび里親にあたる成熟ワーカーと遭遇させる行動試験を実施したところ、14日間の里子経験によって血縁個体に対しては排他的に振る舞い、里親に対しては友好的に振る舞うことを明らかにした。これはアリにおける同巣認識成立が「氏より育ち」に影響されることを明瞭に示すものである。さらに血縁巣と里親巣の間でCHC比較を実施したところ、その巣間差を説明しうるのはアルケン成分であり、里子キャロウは里親アルケン組成比に近いCHCを保有するようになることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に計画として挙げていた項目に関する検証データを得ることができたが、最終年度の人工的学習成立にむけた予備試験を行う余裕はなかった。ここまでの進捗状況は計画通りではあるが、最終年度の試験進行にとっては少しマイナスになる恐れがある。
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Strategy for Future Research Activity |
キャロウに対して、人工的に同巣認識シグナルを学習させる環境設定については、まったく未知のところであるため、検証を行うための実験系設計自体が、まだうまくできるかどうかの見込みが立っていない。いくつかの養育条件区で14日間キャロウを人工的に養育し、生存率を比較検証するところから始める。生存率が担保できる条件をみつけたら、さらに、成熟ワーカーによって14日間世話を受けたキャロウの反応をポジティブコントロールとして計測し、成熟ワーカーには接触させずに成熟ワーカー由来の化学シグナルのみを14日間提示しながら人工的に養育した場合のキャロウの行動と比較する。これを学生の卒業研究テーマとして実施開始している。
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Causes of Carryover |
発表を予定していた対面実施予定であった学会の開催地でコロナ感染者数が増加してしまい(同大会は結果的にオンライン開催に変更された)発表を一つ取りやめたこと、また発表を行った学会の大会もオンライン開催であったため、予定していた旅費を支出できなかったことが挙げられる。最終年度に予定している人工的学習促進を狙う養育試験については、前例のない試験であるため、飼育容器を含めた工夫など装置の調整などに経費を要すると考えられる。先だって模索を開始する予定であったものが、コロナ対策の影響でずれこんでしまったことも一因である。巣間差を生むCHC成分は市販されていない成分も含むため、有機合成を依頼する必要がある。それらの化学物質などを入手するために経費を一部使用する予定である。また、GCMS分析等の機器分析を進めるにあたり、ラボ所有の装置が故障したために、学内共用分析機器の使用料が発生することと、別途微細な分析を行う必要が生じたときには学外に分析依頼を考えており、そのための経費としても使用を予定している。さらに令和3年度までの成果を踏まえた論文を投稿するにあたって、英文校閲や投稿に係る経費として使用する。
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Research Products
(1 results)