2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on the improvement technique of the space value in rural landscape using by native wildflowers.
Project/Area Number |
20K06114
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20369135)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 開花景観 / 管理インセンティブ / 生態的社会的正統性 / フラワーツーリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
農村景観保全地区“浮谷の里”(埼玉県加須市)において、湿地のシンボル植物ノウルシの分布を調査した。計2,930㎡の群落規模が確認され、その開花景観が春季の湿地の魅力となっていた。一度も水田に開墾されずに湿地が継続してきた場所が大規模な生育地となっており、逃避地として機能してきたと考えられた。外見上は同じヨシ優占群落でも、休耕水田と継続湿地では種組成が異なり、休耕水田はノウルシの生育に適していなかった。埋没谷からの湧水という特有の生態システム、その生態系を基盤に避難地の非開墾地を残してきた農村開発の歴史、近年の住民による野焼きの景観保全活動が本種の分布に影響していた。このように在来野草類を活かしたフラワーツーリズムには、その生態的正統性の明示が重要と考えられた。 圃場整備後40年近くが経過した三乗棚田(富山県八尾地区)において、畦畔法面の植生回復状況を検討した。植生調査より、1年生耕地雑草及びススキクラスの種でそれぞれ特徴付けられる地点に大別された。本棚田では営農組合が組織され、適正な草刈り管理が継続されることで多様な草本種の生育する半自然草地が棚田全体に広がることが確認された。 長期管理放棄された後に林床管理が再開された雑木林場所で、管理回数等によるシュンランの生育状況の差異を検討した。5年前に下草刈りが1回入った林に対し、10年間継続した林の方が個体数及び開花個体数が多かった。開花率は開空率と正の相関が認められ、アズマネザサの繁茂に対し本種の保全における管理継続の重要性が示された。 伊豆大島(東京都)においては、椿油用の実を介してその防風林に住民がマイナー・サブシステンスとして継続的に関わりを持ち、ユニークな文化的景観の醸成そして住民の地域景観の再評価を含む椿の花と独特の空間構成からなる観光資源化といった文化的な恵与までが成立している構図が成立することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新興感染性流行の影響により県を越える形の現地調査の自粛、特に開花景観を管理している地元団体への接触を控える必要が生じ、全体的に進捗が遅れている。また、在来野草類の開花景観を売りにしたイベント自体も自粛ムードで中止する所が多く、活動団体へのヒアリングを行いにくい状況となっている。ただし、感染対策を十分に採った上での調査活動を少しづつ進めており、論文等で成果を出しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
在来野草類の開花景観が地域活性化の駆動装置として機能し得ることを、事例活動地を基に検討を進める(栃木県那珂川町を予定)。すなわち、在来野草類(ワイルドフラワー)の開花景観を地域活力維持のための地域資源と捉え、管理放棄で荒廃が進みつつある里山林の管理・活用を図ることは、農村の生物多様性を活かした地域活性化活動の一つとなる、という視点である。これは壮観な群落開花景観を形成する野草類は、観賞や(特に都市住民の)精神的開放を含む豊かな空間体験を可能とするため、周囲の良質な農村ランドスケープと合わせて新たな空間的価値を創出することが可能であるためである。事例活動地での活動の契機、展開過程、活動団体の遣り甲斐や地域貢献意識等について研究を進める。また、そこにおいては活動地の地形区分・土地利用履歴・樹林タイプ・対象開花植物・鑑賞スタイルによって開花景観の空間特性が異なることが想定され、その組み合わせによる空間特性の特徴の模式化を行う予定である。 一方、川下に集住する都市住民や企業より集めた資金を、川上に位置する里山の樹林管理に充てる事例も増えつつあり、その保全効果の検証が求められている。特に住民による管理の維持・再開には、そのインセンティブを得る上で生物多様性保全への効果を住民が了解できるような目に付きやすい在来植物の存在が効果的と考えられる。そこで、在来野草類のみならず人の目線に近い部位に花や実を着ける灌木類も着目し、環境税及び企業の協力金により管理が再開された里山林での生育環境改善効果について研究を進める。
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Causes of Carryover |
理由は新興感染症流行に伴う調査の規模縮小による。感染症対策を十分に行いつつ、初年度で出来なかった調査(在来野草類の開花景観を地域活性化に結び付けている活動団体へのヒアリング他)を進める。
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Research Products
(7 results)