2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on the improvement technique of the space value in rural landscape using by native wildflowers.
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20K06114
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20369135)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 林床管理 / フラワーツーリズム / アンダーユース / 地域文脈 / 遣り甲斐 / 生育立地 |
Outline of Annual Research Achievements |
特色ある早春季の群落開花景観(カタクリ・イワウチワ)を公開する管理活動実践地を2地区擁する栃木県那珂川町を事例に,その地域活性化の実践過程を調査した。両地区とも、特色ある開花景観との邂逅を起点する,樹林管理と公開の試行と実践,特に地域資源を来訪者への提供であることの協力金を介した自覚,愉しみややり甲斐を感じつつ里山林の管理・活用の継続といったものであった。その背後には地域のキーパーソンを中心とする地域活性化に協力を惜しまない人々の存在があり,彼らは必ずしも当初は野草や自然の愛好家ではなかったことが特筆された。開花景観の保全・育成の先に,地域活性化に対し自身らで出来ることを愉しみながら行うといった活動の姿勢があったことで,多くの地域の協力者の参画を可能にしていた。 上記の活動地の一つ,イワウチワ開花景観の管理・公開活動を継続している富山船戸地区を対象に,対象植物の生態的な地域文脈としての生育立地特性の把握を試みた。群落分布調査の結果,公開地周辺で25ヵ所のイワウチワ群落が確認され,ほとんどが斜面上部の尾根付近に群落が位置していた。いずれも北向きを中心としたヒノキ林や落葉広葉樹林の林床に見られた。他の群落成立地に比較して公開地は群落規模8000㎡と突出しており,その特異性が確認された。公開地周辺は,かつては薪炭林が広がり,戦後の薪炭林から用材林へ転換された。しかし,20世紀末より農村コミュニティが弱化する中,地域活性化に向けた地域資源を模索していた過程で,イワウチワの開花景観が発見された。そこでの林に向けられた意識は,今日では管理が放棄されがちな人工林の樹林管理を継続してイワウチワ群落を保全し,そのフラワーツーリズムを通じて多くの来訪者が訪れることに重きが置かれていた。それにより保存会のメンバーは管理・公開活動の遣り甲斐を得るとともに,地域の良さを再評価する契機となっていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在来野草類の開花景観が地域活性化の駆動装置として機能し得ることを幾つかの事例地で明らかにした。また,そのフラワーツーリズムが持続的に展開するプロセスや要因の抽出も明らかにしつつある。対象植物の生態的特性の知見も蓄積している。 ただし,管理主体が対象開花植物の保全に注力している事例が多く,その開花景観を支えている生態的・社会的な地域文脈を踏まえた農村ランドスケープの空間価値向上への段階に向かうための理論構築及び効果的な手法について,検討していく必要があると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
在来野草類をシンボルとした住民による里山林の管理・活用は,実践地ごとの個別の契機・実践・活動深化・波及効果といった実践過程があり,その相互比較の中で共通する要素や文脈を考察することは,類似する活動を広める上で意義あるものと考えている。このため,前年度までに調査してきた活動実践地に加え,①棚田跡地へのヒガンバナ群生地化による半自然草地保全の事例(栃木県那須町蓑沢地区),②棚田跡地でのフクジュソウの開花景観による地域活性化の事例(福島県山都町沼の平地区)での調査を進める予定である。また,環境税等を用いた民有地の雑木林レクリエーション林(栃木県那珂川町小砂地区)での植物種の多様性改善効果,及びフラワーツーリズムに適した開花景観野草類の把握やその開花フェノロジーについて,調査を継続中である。 これらの事例研究を増しつつ,単なる開花景観の(見た目の)価値ではなく,生態的社会的正統性を有する農村ランドスケープの価値に昇華するための理論と手法についても,検討を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
理由は前年度から引き続く新興感染症流行に伴う調査の規模縮小による。感染症対策を十分に行いつつ,前年度で出来なかった調査(在来野草類の開花景観を地域活性化に結び付けている活動団体へのヒアリング他)を進める。
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Research Products
(6 results)