2022 Fiscal Year Research-status Report
我が国の「納涼」とそれを支える水辺社会に関する近現代史研究
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20K06115
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
林 倫子 関西大学, 環境都市工学部, 准教授 (60609808)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 納涼 / 水辺 / アメニティ / 花火 / 舟遊び |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、我が国の歴史上にみられた「水辺社会」の一例として、日本各地の水辺に開設されてきた夏季納涼の場に着目する。河川管理者・営業者・利用者という各ステイクホルダーの利害関係をどのような管理・運営によって調整してきたのかという、納涼の場となった水辺をとりまく社会的システムを解明し、今後の「水辺社会」デザインにおいて参照すべき先行事例を蓄積することを目的としている。 三年目となる2022年度は、以下の3つの課題について研究を進めた。 まず、三都納涼のひとつであった京都鴨川については、2021年の内容に引き続き、戦後の河川改修における納涼等の鴨川の歴史文化の河川デザインへの反映実態の解明として、新たに当時の京都府職員へのヒアリング、行政文書調査を行った。その結果、改修計画のマスタープランを公園整備や河川整備の実施設計内容に具体化する際の設計思想を把握することができた。さらに、過去に行った明治時代の納涼営業実態にまつわる再考察も試みたほか、納涼営業の主体となった遊所文化に支えられ成立した「東山鴨水」の風景表象から、山水美を称える「山紫水明」の風景表象が生まれたことを明らかにした。 次に、近代の宇治公園については、遊覧・納涼の場としての宇治川界隈整備の過程を、新聞記事や行政文書などから解明した。同内容の講演論文を、土木学会景観デザイン研究発表会にて発表した。今後はその内容の精査を行い、査読論文としての完成を目指す。 さらに、大阪大川納涼については、2020年度に作成した河川空間利用に関するデータベースを活用して、川での遊びのアクティビティ新聞記事の収集を行い、当時の営業の実態やイベントの実施状況について明らかにした。2023年度には、さらに納涼の場に賑わいを生む都市構造に着目した考察を加え、同内容の学会論文投稿を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、前年度より進めていた京都、宇治の川辺の研究をより発展させることができた。 京都鴨川の納涼場、および納涼場の発展形と位置付けている現代の河川デザインに関する研究内容は、2022年度の進捗分については学会論文投稿が未了であるが、2023年度中の投稿のめどはついている。また、納涼にまつわる風景表象研究は、2022年度中に論文投稿1回、著書(共著)の刊行1回を経て完了した。 宇治川宇治公園に関する研究内容は、学会発表での質疑応答を受けてブラッシュアップを図っている。 また、2022年度より本格的に着手し始めた大阪大川納涼については、まだ未解明の部分が多々あるが、既に研究を進めている京都鴨川の納涼場とは全く異なる営業の様子や遊び方が確認され、大きな成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度末に、研究期間の1年延長を決定し以下のような計画を立て、かつ、コロナ禍という社会情勢を鑑みて関西圏の対象地に重きを置いた調査計画にシフトさせた。 テーマ1「三都納涼および国内の主要な納涼の場の把握」(2020~2021年度) テーマ2「納涼の場の空間・景観の実態解明」(2021~2023年度) テーマ3「納涼の場の管理・運営・利用面に着目した都市社会学的解明」(2022~2024年度) 対象地ごとに進捗の差はあるが、京都鴨川の研究は、テーマ1~3に向けて完了に近づいており、随時残りの成果を論文執筆し発表していく予定である。京都宇治川の研究は、テーマ2・3を同時並行で進めており、随時時代を下がって解明を進める。大阪大川の研究は、現在テーマ2の途中であり、テーマ2から3にかけて進めていく。今年度は当初の予定通り、納涼場の隆盛について、都市と川でのアクティビティの近代化という2つの側面から論じていくこととしている。その他対象地については、2023年度より遠方への出張が容易になったことも加味し、上記対象地にまつわる研究の進捗を見つつ、可能な範囲で遂行することとする。
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Causes of Carryover |
2020年度から2022年度までの新型コロナウィルスの感染拡大による出張自粛方針により、関東をはじめとする遠方への出張が難しい時期が続いた。これを受けて、確実な研究遂行を達成するため、全国各地に予定していた研究対象地を関西方面に絞った。かつ、学会のオンライン開催も相次いだことにより、出張旅費や、さらには出張を伴う調査にかかる学生アルバイト謝金の支出なども必要でなくなった。以上が、全体的に予算執行が滞っている理由である。 今後は、関西地区内でも濃密な研究成果を上げるために、学生アルバイト謝金や資料購入に充てる予算を増やし、使用していく予定である。また、関西地区での研究を最優先とするものの、必要に応じて他地区での研究遂行も検討していく予定である。
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Research Products
(4 results)