2021 Fiscal Year Research-status Report
局所集団内における乾燥応答性遺伝子の遺伝的変異に基づくブナ林の保全方法の開発
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20K06124
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
鳥丸 猛 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (10546427)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ブナ / 乾燥関連性遺伝子 / 一塩基多型 / プロリン / フラボノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、乾燥応答性遺伝子の集団内変異の調査を計画しているため、遺伝子発現の結果として顕在する植物体の表現形質や生理特性を把握し、それらが乾燥ストレスに適応的な応答であるかどうか検討する必要がある。そこで本年度は、土壌への乾燥ストレスがブナの当年生実生の成長と生体物質の生産へ及ぼす影響を明らかにするため,青森県の2箇所(白岩森林公園と高倉森)でブナから採種し,発芽させて恒温室内で約2週間にわたり対照区(2日に1回給水)と乾燥処理区(給水無し)に分けて栽培した。栽培実験終了時には乾燥処理区の土壌含水率(約7%)は対照区(約20~25%)よりも約65~72%低下していた。それぞれの採種地において,乾燥処理区の樹高や地際直径の相対成長率は対照区よりも低かった。栽培実験開始時に樹高が低い個体ほど栽培実験終了時の葉や根の遊離プロリンや葉のフラボノイドの濃度が高かった。樹高の影響を考慮した統計分析の結果,採種地に関わらず実生の葉の遊離プロリンの濃度や根のフラボノイドの濃度は対照区よりも乾燥処理区で高かった。乾燥処理による以上の生体物質の濃度の増加から,ブナの当年生実生の乾燥ストレスに対する適応的な応答の存在が示唆された。また、それらの研究と並行して、2021年9月に福井県大野市(モッカ平)において種子を採取して人工気象器内で発芽させ、ビニールポットに植え替えて人工気象室内で育成した。 多検体において乾燥応答性遺伝子領域を一斉にスキャンするための技術として、MinIonを用いたロングリードシークエンシング技術の構築を行った。ナノポア社のバーコード配列12個を用いたPCR法によるライブラリーを作製し、シークエンシングを行うとともに、遺伝研スパコンを活用してGPUを用いたベースコール、ならびに一塩基多型の検出、フェージングまでの一連のバイオインフォマティクス方法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題で着目した植物の乾燥ストレスへの応答について、モデル植物で知られているプロリンやフラボノイドの応答を検出できたことから、ブナの乾燥応答が局所集団内においても意義があることが示された。最終年度のRNA-seqによるトランスクリプトーム解析に供する試料(ブナ実生)も十分な量を確保できており、順調に生育している。さらに、本研究の最終目標である非中立遺伝子の検出を多検体で実施する方法についても確立できた。そのため、進捗状況としてはおおむね順調であるものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
採取された種子については、研究計画に従い発芽させたものを乾燥処理実験に供する予定である。併せて、乾燥処理が植物体の生理現象に変化を及ぼしているかを確認するため、乾燥ストレスの指標であるプロリン、フラボノイド、ベタイン、マロンジアルデヒドなどを定量する。上記の乾燥処理によって発現量の異なる遺伝子をターゲットとしたプライマーを設計し、MinIonによる一塩基多型の検出とブナ集団内におけるその遺伝的変異の空間分布を解析予定である。
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Causes of Carryover |
2年目においてRNA-seqのために十分な量のRNAを抽出できなかったため、予定使用額を下回った。その後、RNA抽出方法を検討しつつ、再度ブナ実生を育成中であり、最終年度に前年度分のRNa-seqも実施する計画となった。
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