2020 Fiscal Year Research-status Report
樹木の髄付近の酸素・炭素・水素同位体比分析による日単位の降水量復元
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20K06133
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
久保田 多余子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70353670)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香川 聡 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (40353635)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 髄 / 降水量復元 / 酸素同位体比 / 炭素同位体比 / 水素同位体比 / スギ / 年輪年代学 |
Outline of Annual Research Achievements |
年輪年代学では年輪のセルロース中の酸素と水素安定同位体比を用いて、過去の降水量を1年単位で復元することが可能である。しかし、過去から現在に向かって、台風の発生頻度が増えているかどうかといったことを解明するためには、1年未満の時間単位で降水量を復元する必要がある。このために、1年輪をさらに細かく分けて分析することも行われているが、年輪幅が狭く難しい。一方、樹木の髄はもともと樹木の先端部にあり、葉や表皮から雨を吸収して胸高部の年輪よりも降雨の同位体比を精度良く記録している可能性が高い。また、樹木は肥大方向よりも、伸長方向に成長が早い。そこで、本研究では、髄を伸長方向に分割することにより、数日~1週間の時間分解能で高精度に降水量を復元することを目的とする。 今年度は、本研究に適した樹種を選定することから開始した。chamberd pithと言って、髄が小さな空室を仕切っているような形状になる、サワグルミとオニグルミ、および日本の代表的な樹種である、ヒノキ、スギ、アカマツを分析の対象とした。伸長量を毎日から週1回の頻度で計測した結果、オニグルミは伸長量が小さいため、適さないと考えられた。サワグルミは伸長量が大きいが、伸長が4月から始まり6月中には終わるため、降水量を復元できる期間が短いと考えられた。また、ヒノキは髄が小さいため、分析に必要な試料の量が得られないと考えられた。アカマツも髄の主な成長が6月で終わる上、その後も不規則に成長するため、降水の復元に向かないと考えられた。そこで、今年度は4月~10月まで、比較的長期間成長し、分析可能な採取量があるスギを対象にした。スギを先端から根元に向かって、0.5 mm間隔で、計50cm程度(9月ひと月で成長した長さに相当)をスライスし、酸素および炭素同位体比を分析した。この結果、酸素同位体比と降水量の対応が見られると判断できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画は、所内の苗畑に植栽した、スギ、ヒノキ、アカマツ苗を用いて、髄の切片を作成し、酸素・炭素・水素安定同位体比を分析して、同位体比に日変動が見られるか否かを調べる予定であった。実際に初年度に実施したこととしては、スギ、ヒノキ、アカマツの他に、サワグルミとオニグルミも樹種に加え、伸長量を測定して、何月何日に成長した髄であるかが分かるように印をつけた。当初の予定では、スギ、ヒノキ、アカマツの3種すべてで、同位体比の分析を行う予定であったが、樹種を選定した結果、スギが最も本研究に適していると考えられたため、スギに焦点をしぼった。また、髄の細胞に含まれる、でんぷんや抽出成分を取り除く方法を試行錯誤したため、実際に分析を開始するまでに予定より時間を要した。スギの髄の酸素、炭素、水素同位体比を分析したが、水素は現在の分析装置の設定では分析することができなかった。このため、今後、分析できるように装置を改良する。酸素と炭素同位体比には明瞭な日変動はみられなかったが、降雨と同位体比の変動を対応させると、同位体比が大きく変動する時と降雨とに対応が見られると判断できた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は1個体のスギで、ひと月に成長した分に該当する髄を分析したが、2年目は個体数を4個体に増やして、また1年分に該当する髄を分析して、同位体比と降水量との対応関係を調べる。そして、数日から1週間単位で降水量を復元することを試みる。
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Causes of Carryover |
研究計画はおおむね達成したが、達成時期が予定より遅れたため、学会で発表することができなかった。このため、学会の参加費と旅費に使用予定の予算が余った。また今年度は論文を投稿しなかったため、英文校閲費として予定していた予算が余った。このため、当該助成金が生じた。次年度は非常に多くの切片を作成する予定であるため、非常勤職員の雇用に当該助成金を使用させていただく計画である。
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