2021 Fiscal Year Research-status Report
冠雪害に伴う自然撹乱前後のスギ林の植生動態変化と生態系機能変動メカニズムの解明
Project/Area Number |
20K06144
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
斎藤 琢 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 准教授 (50420352)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 撹乱 / 雪害 / ガス交換 / スギ / 遷移 / 生態系モデル / 水 / 炭素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、重点研究サイトである50年生のスギ林(TKCサイト)を対象に、蒸散量および粗大有機物呼吸量に関する観測研究を重点的に実施した。第1に、健全木(H)と雪害により樹冠の一部を失った樹冠一部残存木(BSc)に樹液流計測法を適用し、単木スケールの蒸散量を推定した。その結果、BScの単木蒸散量は、Hの単木蒸散量と同様に大気飽差や日射量に伴って季節変化するものの、Hの単木蒸散量と比較して年間で約10%以上小さくなった。このことから、スギの樹冠欠損によって蒸散量の空間的不均一性が増加することが示唆された。また、BScにおける単木蒸散量の減衰の主要因は、BScの樹冠部の欠損によるものと考えられるが、複数の個体でBScの幹部の辺材が一部心材化していることから、幹部の影響も無視できないことが示唆された。第2に、生態系調査区内(30m×50m)の雪害6-7年後(2020-2021年)の樹液流計測データを基に雪害による自然撹乱が林分スケールでの蒸散量に与える影響を評価した。スギ樹冠による年間林分蒸散量は216 mmであった。この値は、年降水量の約13 %であり、健全なスギ林における既存研究の値(14~26%程度)と比較してやや小さかった。したがって、雪害による攪乱はスギ樹冠による林分蒸散量を減少させることが示唆された。第3に、立枯木、倒伏木を対象に粗大有機物呼吸量の時空間変動を調査した。その結果、呼吸量の変動を制御する主要因は、立枯木の上部(地表面から2.7mの部位)では粗大有機物の含水量であり、立枯木の下部および倒伏木では粗大有機物の温度であることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、岐阜県高山市のスギ林(重点研究サイト)を対象に、(1)タワーフラックス観測による継続的なデータ取得、(2)樹液流観測に基づいたスギの樹冠欠損が単木蒸散量に及ぼす影響、(3)攪乱後6-7年における林分蒸散量の定量的な評価、(4)粗大有機物呼吸量観測に基づいた粗大有機物呼吸量観測の環境応答特性の解明等を実施した。これら、重点研究サイトにおける炭素・水循環プロセスの観測・解析によって、スギの樹冠欠損によって生じる炭素・水循環プロセスの空間的不均一性、および撹乱前後の生態系機能の定量的評価と群落スケールのガス交換特性の動的変動メカニズムが明らかになりつつある。コロナ禍での緊急事態宣言による若干の観測予定の変更はあったものの、観測およびその解析は順調に実施できており、「おおむね順調に進展している」と考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、重点研究サイトを対象に、タワーフラックス観測を継続するとともに、毎木調査を実施する。長期の毎木調査データを基に雪害前後の植生動態を明らかにするとともに、フラックス観測データを用いて撹乱前後の生態系機能の定量的評価と群落スケールのガス交換特性の動的変動メカニズムの詳細について検討する予定である。また、粗大有機物による分解呼吸量の観測を拡張し、林分スケールの粗大有機物による分解呼吸量を推定することで、雪害による粗大有機物の投入が森林炭素循環に及ぼす影響について明らかにする予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、フィールド調査の回数が若干減ったこと、参加を予定していた学会がすべてオンライン実施または延期となったことが主要因である。2022年度中の観測計画および発表計画を一部変更することで対応する。
|
Research Products
(10 results)