2020 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子破壊手法を用いた外生菌根菌ホンシメジの共生メカニズムの解明
Project/Area Number |
20K06148
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
泉津 弘佑 滋賀県立大学, 環境科学部, 講師 (20579263)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 外生菌根菌 / 菌根共生 / インシリコ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は菌根性担子菌類および腐生性担子菌類の全ゲノム比較を行い、インシリコ解析により外生菌根共生に重要と考えられる遺伝子群の探索をおこなった。まず、ハラタケ亜門に含まれる菌類について比較を行なった結果、腐生菌類が共通して保有している遺伝子群を菌根菌類が共通して欠損していることを見出した。その多くは、Glycoside Hydrolase ファミリーに含まれる分泌型の植物細胞壁分解酵素であった。外生菌根菌が植物細胞壁分解酵素の多くを進化的に欠損しているという報告はこれまでにも複数あるが、本研究では機能未知の新規遺伝子群についても複数見出した。これらの新規遺伝子も植物細胞壁分解に利用されている可能性が高いと考えられる。以上の結果から、外生菌根菌の進化においては「植物への攻撃性」を失うことが重要であったことが強く示唆された。そこで、本研究では進化的に欠損した細胞壁分解酵素を外生菌根菌に遺伝子組換えにより導入し、宿主との共生実験を試みる計画を立てている。一方で、菌根菌類が共通して保有し、腐生菌類が共通して欠損している遺伝子群の数は非常に少なかった。しかしながら、非常に興味深いことに、C末端に膜貫通領域を含む機能未知遺伝子のファミリー(CAES1と命名)がハラタケ亜門全体の菌根菌類で90%以上保有され、腐生菌類では10%程度の保有率しかないことを見出した。多くの菌根菌ではマルチコピーになっており、菌根共生に非常に重要な機能を持つと推測される。ハラタケ亜門は4億年以上前(デボン紀)に出現したと考えられているが、外生菌根菌の出現はマツなどの針葉樹が誕生した3億年前以降(デボン紀末期以降)と言われている。ハラタケ亜門全体の外生菌根菌では「進化的に共通する遺伝子群が少ない」という現象は、この進化の歴史で十分に説明がつくが、CAES1については例外であり今後詳細に解析をすすめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
担子菌類の全ゲノム比較(インシリコ解析)は非常にうまくいっており、本研究の最大の課題であった共生関連遺伝子群の同定はできていると考えられる。一方、新型コロナ感染対策のため生物系の実験はやや遅れている部分もある。総合的には、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
インリリコ解析については、ハラタケ亜門のような高次分類群ではなく、ハラタケ亜綱などに限定することで菌根共生と関連する遺伝子群(複数のエフェクターを含む)を見出し始めている。このため、さらなる解析をすすめる予定である。また、ホンシメジ以外の菌根菌の遺伝子組換え系の作出にも着手する。初年度に見出した遺伝子群の破壊株および導入株の作出もすすめる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染対策のため、研究計画にやや変更が生じたため。具体的には、今年度はインシリコ解析を中心に研究をすすめ、生物系の実験の重点を次年度とした。
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