2021 Fiscal Year Research-status Report
食葉性昆虫の大規模食害による失葉下での異常な木質形成のメカニズムの解明
Project/Area Number |
20K06156
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邊 陽子 北海道大学, 農学研究院, 研究員 (30532452)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安江 恒 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (00324236)
大野 泰之 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 森林研究本部 林業試験場, 研究主幹 (30414246)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 食葉性昆虫 / カラマツ / ウダイカンバ / white ring / 炭素安定同位体パルスラベリング / 形成層 |
Outline of Annual Research Achievements |
樹木は、食葉性昆虫の大規模な食害によって成長期に失葉することで、異常な木質を形成する。本研究では、失葉による光合成産物の分配の変化、すなわちcarbon allocationの変化に着目し、異常な木質形成のメカニズムを解明することを目的としている。本年度は、北海道の主要造林種であるカラマツについて、苗木を用いて、13Cを光合成によって樹体内に吸収させる炭素安定同位体パルスラベリング実験および摘葉処理を実施した。それと同時に木質形成の指標となる形成層マーキング法をおこなった。カラマツは6~7月ごろにマイマイガの幼虫に、7~8月ごろにカラマツハラアカハバチの幼虫に針葉を食害されるため、それぞれの時期に合わせて実験をおこなった。今後、試料採取を行い、詳細に分析を行うことで、成長期の失葉下における異常な木質形成のメカニズムを解明する予定である。 また、食葉性昆虫の大発生による失葉が、ウダイカンバの木質形成にどのような影響を及ぼすかについて詳細な分析をおこなった。ウダイカンバは成長期にクスサン(ヤママユガの1種)の幼虫の食害によって失葉すると、肥大成長が減少し、枝枯れを起こすようになるだけでなく、木部繊維壁が薄壁化するwhite ringを形成することが明らかにされている。そこで、年輪解析によってwhite ringの形成年が同定された試料を用いて、木部繊維の壁厚の変化を詳細に測定し、かつ、走査型電子顕微鏡によって観察をおこなった。その結果、木部繊維の壁厚は、white ringが形成された時のみ薄壁化していることが明らかとなった。これは、過度の失葉による光合成産物の減少が理由と考えられる。一方で、失葉による蒸散の低下や、植物ホルモンのバランスの変化による影響も考えられることから、今後、それらに関しても解析する必要があるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
質量分析計の不具合などにより、分析が若干遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、ウダイカンバおよびカラマツの炭素安定同位体パルスラベリング実験試料の解析を中心に行う。これらのデータと失葉下で形成された木質の顕微鏡観察を行うことで、異常な木質形成のメカニズムを解明する。さらに、野外で実際に食葉性昆虫の大発生によって失葉したウダイカンバやカラマツを用いて、年輪解析による過去の食害履歴についての基礎的な知見を得る。
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Causes of Carryover |
コロナにより、対面での打ち合わせができなかったうえ、学会がオンラインで実施されたため、予定していた旅費が使用できなかったことにより、次年度使用額が生じた。 来年度は、試料採取や対面での打ち合わせ、学会参加などの旅費や、試料分析の費用などに使用予定である。
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