2020 Fiscal Year Research-status Report
Studies on cytoplasmic inheritance in sexual crosses and effects of cytoplasm on biological properties in Agaricus subrufescens
Project/Area Number |
20K06161
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
福田 正樹 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (40208963)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アガリクス茸 / ヒメマツタケ / 細胞質遺伝 / ミトコンドリアDNA / 交配 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗腫瘍活性など様々な機能性を保有するアガリクス茸(ヒメマツタケ)の交配育種を推進するために,きのこの形質発現に影響をおよぼす細胞質の交配に伴う遺伝様式を,ミトコンドリアDNA(mtDNA)をマーカーにして解明すること,さらに細胞質の違いがアガリクス茸の形質発現(菌糸生育,子実体形態・発生量,機能性など)にどのような影響をおよぼすかを明らかにすることを目的として研究を開始した。 まず,当初の研究計画の通り,初年度は対峙培養接触部から出現したセクター状菌糸体(推定交配株)のDNAプロファイルを分析して,セクター状菌糸体が交配の結果生じたものであることを確認するとともに,それらのmtDNAのRFLP分析を行い,交配に伴う細胞質遺伝様式(片親遺伝 or 両親遺伝,mtDNAの組換えの有無)を明らかにすることを目指した。 セクター状菌糸体が形成しやすい培養方法の検討も並行して行いながら,100組以上の組合せで対峙培養を行ったところ,それらの組合せの中から,明確なセクター状菌糸体を形成する組合せを約半数選抜することができた。DNAプロファイルにより交配株であることを確認できた5組合せのセクター状菌糸体(セクター中心部から分離)について分析したところ,それらの全てがどちらか一方の親ホモカリオン系統のmtDNAを受け継いでいた。すなわち,アガリクス茸の交配に伴う細胞質の遺伝様式は,片親遺伝であることが強く示唆された(どちらの親系統の細胞質が伝達されるかの規則性は不明)。 さらに,次年度の分析材料とする細胞質置換株を得るために,セクター状菌糸体の無性胞子由来の再生菌糸体を多数分離し,それらの中から脱ヘテロカリオンの結果生じたホモカリオンを菌叢形態を指標にして分離した。DNAプロファイルの分析により分離したホモカリオンの核型の決定を行ったところ,細胞質が置換したと考えられるホモカリオンが存在した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画では,ホモカリオン約20系統を親系統とし, mtDNAの異なる組合せで最低20組合せの対峙培養を行うことにしていたが,研究室保存のホモカリオン70系統を親系統として供試し,細胞質の異なる100組(20系統×50系統)の組合せで対峙培養を行った。対峙培養の結果,それらのうち約50組が親ホモカリオン系統の接触部から,明確なセクター状菌糸体を形成した。また,本年度は,DNAプロファイルにより交配株であることを確認したセクター状菌糸体5個体のmtDNA分析を完了し,アガリクス茸の交配に伴う細胞質の遺伝様式は片親遺伝であると推定できた。さらに,次年度の研究の材料となる細胞質置換株(ホモカリオン)も予定通り分離することができた。 以上のように,当初の研究計画通り研究は進んでいると判断した。なお,当初に計画ではプロトプラスト培養によりセクター状菌糸体を脱ヘテロカリオンする計画であったが,無性胞子培養によっても脱ヘテロカリオンできることがわかったので,より細胞にダメージが少ないと考えられる無性胞子培養法で脱ヘテロカリオンすることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
アガリクス茸の交配に伴う細胞質の遺伝様式が片親遺伝であるという仮説を検証するために,セクター状菌糸体のmtDNA分析を継続して行う。なお,初年度は形成したセクター状菌糸体の中心部付近からのみmtDNA分析用の菌糸体サンプルを分離していたが,セクター状菌糸体内でmtDNAがキメラ状に存在している可能性もあるので,中心部以外の部分からも複数菌糸体サンプルを分離して分析する予定である。この際,両親ホモカリオン系統のmtDNA型の混合型が検出される可能性もあるが,その場合は分離株を無性胞子培養により単細胞化し,それらについてmtDNAの分析を行う(仮に混合型が検出されれば,ヘテロカリオンの細胞質置換株を得ることができる)。なお,現在mtDNAタイプの分析は全mtDNAのRFLP分析により行っているが,複数のミトコンドリア遺伝子に変異が検出されれば,それらを遺伝マーカーにすることでmtDNAタイプの識別がより簡易に行うことができる。多数のサンプルを解析するためにも,次年度の検討課題に加えたいと考えている。 また,形質発現におよぼす細胞質の影響を調査するために,初年度に作出したホモカリオンの細胞質置換株と元株の表現型を分析する。表現型としては,当初の研究計画に記載した通り,菌糸伸長速度や機能性(抗酸化能など)について調査を行う。なお,現時点ではヘテロカリオンの細胞質置換株は得られていないが,セクター状菌糸体の複数部分から調整したサンプルのmtDNAが異なっていればそれらを材料に,また仮にどちらか一方のみの細胞質が選択的に伝達される片親遺伝であった場合は,ヘテロカリオン・ホモカリオン交配により細胞質が異なる交配株を作出する。そして,ヘテロカリオンの細胞質置換株については,上記の項目に加え,子実体の形態や発生量についても調査する。
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